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第21回 石川県 社会福祉法人 福寿会 特別養護老人ホーム 福寿園

社会福祉法人 福寿会 特別養護老人ホーム 福寿園
開設は1983年。2009年に従来型からユニット型に転換し、尊厳の保持を基本とするケアをいっそう実践。「身体拘束廃止宣言」を施設全体で掲げ、人権および尊厳の尊重とQOL(生活の質)の向上を目指す取り組みを行っている

 

介護職による栄養管理で、
「最期まで口から食べる」を実践

 「第3回JSフェスティバル」の実践研究発表で、特別養護老人ホーム福寿園の「介護職による栄養管理」が見事、優秀賞を受賞。テーマには、端 久美施設長の「口から食べる喜びを支えることは、命の尊厳を守ること」という強い信念が込められています。

 従来、栄養管理は管理栄養士が主導する専門領域です。しかし同園では「もっとも近くでご入居者の状態を見ている」という現場の強みを生かし、介護職が栄養状態の把握と支援に関わる体制を構築。食事量や体重変化をデータ化し、BMIを主指標として低栄養リスクを可視化するとともに、減薬や食形態の見直しを医療職と連携して進めるなど、日常ケアの延長にある〝介護職ならではの栄養管理〟を実践しています。

 

自発性を信じて任せる 現場が動くマネジメント

 活動を推進するうえで端施設長が重視したのは、職員一人ひとりの自発性と専門性を信じるマネジメントです。「指示や管理ではなく、任せることで人は成長します。立場が変われば意識も変わると考えています」(端さん)

 介護主任や介護リーダーに役割を託し、介護職が看護師、管理栄養士とともに情報を共有することで、栄養を意識した介護へとシフトしていったと話します。同時に、嘱託医による定期的な診察や、週1回の歯科衛生士のラウンドを通じた口腔機能の確認・食支援も継続。医療・栄養・介護が一体となった多職種連携のもと、今日までご入居者の“食べる力”を支えています。

 また、令和6年能登半島地震では、老施協DWATの派遣を受けて被災者支援にも取り組みました。避難生活での低栄養リスクを踏まえ、栄養摂取量の確保と減薬による代謝負担の軽減を図るなど、日頃培った栄養ケアのノウハウを地域にも還元。「当時受け入れた多くの被災者は、今も福寿園の栄養管理と減薬、リハビリで安定した状態を保っておられます」(端さん)

 職員が育ち、ご入居者のQOLが高まる。その成果は、介護職の専門性とマネジメントの融合によって生まれたもの。次のページでは、その具体的な実践を担った現場職員の発表内容をご紹介します。

 

❶ 従来型から現在のユニット型に移行する際に導入したというアザラシ型ロボット「パロ」。玄関前で充電後、各ユニットでご入居者に癒しを与えている ❷ 充電中の「パロ」のそばには、ご入居者やご家族、地域から寄付された多様な書籍からなる図書コーナーが ❸ 廊下にはカメラ好きの職員が撮った、ご入居者の大判プリント写真がずらり。どれも家族に見せるような自然な表情のものばかり ❹ 人材育成のために多様な専門委員会活動の体制を構築。職員の自主性を重視し、魅力ある職場づくりに取り組んでいる

 

すべてのご入居者に栄養目標を設定し、 状態の変化などを嘱託医と介護職が直接話し合うことで、 これまで困難だった介護職を加えた多職種での栄養管理を実践する福寿園。 実践研究発表の資料をもとに、活動の歩みと変化の過程をたどります。

受賞者のインタビューはコチラから

 

■ 低栄養リスクの 現状把握から開始
最初に全ご入居者のBMIを調査した結果、厚労省が低栄養リスクの危険域とする18.5kg/m²未満の方が34名おられ、その平均値は16.3kg/m²でした。この結果を施設全体で共有し、「見えていなかった低栄養リスク」を明確化するところから取り組みを始めました

■ すべてのご入居者に 栄養目標を設定
令和4年より、全ご入居者の摂取栄養目標を一律1500kcalに仮設定。常食を100gから130gへ増量し、牛乳やヨーグルトの追加で、エネルギーとタンパク質を補充。共通目標を示すことで、各ユニットが統一した視点で支援を検討しやすくなりました

■ 栄養管理表で 変化を見える化
各ユニットで平均水分量、提供栄養量、摂取栄養量、摂取率、体重、BMIを一覧化した栄養管理表を作成。月ごとの推移が一目でわかり、リスクの高い方を早期に把握できるとともに、介護職がデータを確認しながらケアを調整することで、業務に根拠が加わることになりました

■ 多職種で支える 回診と相談表
嘱託医の回診前には栄養管理表と相談表を用いて、医師、管理栄養士、看護師、介護職が状態変化や栄養量、薬剤、ACPまで話し合います。そして現場の観察にもとづく情報を共有し、減薬や食形態の変更を多職種で決定。最期まで口から食べるための連携体制を実践しています

■ 被災者受け入れで 実感した成果
能登半島地震の際は被災者11名を受け入れ、約1か月後には福寿園の通常ケアへと切り替え。そのうちCさんは、入所時に水分600cc、食事量も少ない状態でしたが、段階的な栄養改善と減薬により、約2か月後には笑顔が復活。平時の取り組みが災害支援にも生きた事例です

 

 

栄養管理の見直しを軸に、介護職が主体的に学び、実践する体制を築いてきた福寿園。「介護職による栄養管理」の推進者である板本さんの言葉からチームケアの新たな可能性を探ります。

 

医療、運動、栄養など 介護職には広い知識が必要

 

 福寿園の栄養管理の取り組みは、在宅診療を行う嘱託医の「食支援やACPを行うことで、安易に病院に入院搬送してしまう施設を減らしたい」というポリシーへの共感から始まりました。

 

 「栄養ケアは意識していたものの、当時(2022年)は介護職に栄養の知識が乏しく、食事量や摂取量も感覚的に測っていました。そのため、まずは数字で把握することから始めました」と板本さん。

 

 見える化の一歩として栄養管理表を整備。これによって介護・看護・医療の連携が深まり、情報共有のスピードが格段に向上。現在では介護職自身がデータをもとに医師へご入居者の状態を説明し、チームで改善を図る体制が確立しています。

 

 こうしたなか、板本さんが大切にするのは「介護職こそ広い知識を持つべき」だとの考えです。

 

 「ご入居者を支えるには、医療やリハビリ、歯科衛生などの知識も不可欠です。そのためには多職種から学び、得た知識をもとに実践しなければ。そこに介護の専門性があると思います」

 

 この考え方は、福寿園が取り組んできた減薬の実践にも通じています。同園では、精神疾患のある方を除き、長期間の服用で効果の薄れた認知症薬などの向精神薬を計画的に削減。また、嘱託医が利尿剤や降圧剤、胃腸薬などの薬剤を調整しながら、ご入居者の生活リズムの改善と栄養支援を重視。食事量と活動量を高めることで、服薬に頼らず心身の安定を目指す方法を探っています。

 

 「減薬によって表情が豊かになり、また歩けるようになった方もいます。薬で抑えつけるのではなく、ケアによって心身の不調を取り除くことが、本来の介護だと思っています」

 

誰もが担える 栄養管理を目指して

 

 令和6年の能登半島地震の際には、前述のとおり、福寿園で被災者11名を受け入れました。その際も、「日頃からの栄養管理の仕組みがあったので、短期間で通常のケアに切り替えることができました」と板本さん。日常の取り組みが、非常時の支援にも生かされたのです。

 

 「栄養管理の取り組みを通して介護職は大きく成長しました。ただ、今は一部の職員が中心となって取り組んでいるため、今後は誰もができる栄養管理を行っていくのが現状の課題です」

 

 介護の質をより高めるための実践は続きます。

 

 

社会福祉法人 福寿会 特別養護老人ホーム 福寿園
●石川県白山市山島台4丁目100番地   ●tel.076-276-3545 ●入居定員:100名(入居)、4名(短期) ●http://www.fukujyukai.jp/yama_home/

撮影=吉岡栄一 写真提供=社会福祉法人 福寿会 取材・文=冨部志保子