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特集

養護老人ホームの現状と課題 措置の正しい理解と、サービス提供の継続のためにPART.02

“越境”する養護老人ホーム
協働で道をひらく

地域課題の複雑化が進むなか、行政や関係機関との協働を軸に、支援の輪を広げている養護老人ホームがあります。地域のハブとして多様な取り組みを実践する、福岡県大川市の明光園を訪ね、協働による新たな支援のかたちを探りました。

 

 

精神疾患の増加と、 深まる孤立入所者の現状

 大川市養護老人ホーム 明光園が開設したのは、昭和40年。以後、平成9年に現在の建物(2階建て・入所定員50名)となり、平成11年より地域の医師会・大川三潴(みずま)医師会の有志によって設立された大川医仁会が母体になりました。そして平成14年からは市の指定管理を受けて経営しています。

 職員構成は、支援員7名、看護師2名、生活相談員2名、事務員1名、栄養士1名。「少数精鋭」を合い言葉に部署の垣根を越え、入所者の生活の質の向上を目指して「自衛・自力・自立」の働きかけを行っています。

 施設長の前野義章さんいわく、「かつて養護老人ホームの入所者は、生活に困窮している方や、身寄りがない、または自宅の状況が悪く生活が難しい方などが多かったのですが、最近は精神疾患のある方の増加が顕著です」。加えて、「要介護状態の方や触法による入所も増えてきています。男女比でいうと、女性のほうが多いものの、近年はいわゆる前期高齢者の男性入所者が増えている傾向です」と話します。

 また、統括課長の澁田亜希子さんは、こうした入所者に共通するのは「孤独」だと指摘。  「もともと養護老人ホームは社会との関係性が希薄な方が多い施設でしたが、その傾向がさらに強まっていると感じます。以前はもっと入所者同士の支え合いがありましたが、今は他者に関わろうとしない方が多い印象です」(澁田さん)

 

顔の見える地域連携と 行政との共通理解の構築がカギ

 子どもや孫からの虐待による入所の増加も実感していると前野さん。「この場合の保護は緊急です。生活管理指導とショートステイでいったん受け入れ、当園が満床だった場合は、地域の他養護老人ホームで入所可能なところを我々が探します。そして、受け入れ先が見つかれば、市に連絡をし、その方が放置されないように地域全体で取り組んでいます」

 こうした地域で構築されたネットワークこそが、明光園の強み。福岡県には県の老施協のほかに、福岡、筑後、筑豊の各地区にそれぞれ老施協があり、前野さんが副会長を務める筑後地区の老施協では、地区内の養護老人ホーム9施設で2か月に一度の定例会を継続。情報交換や職員交流研修などを通して共通認識の形成と情報共有を徹底しています。

 「一つの施設でできることは限られています。大切なのは団体で動くことです」(前野さん)

 こうした活動が奏功し、筑後地区の入所措置率は継続して90%超を維持しています。

 

 

誤解を超えて 行政と向き合う現場の知恵

 今、養護老人ホームの入所に関して「措置控え」が問題視されていますが、前野さんは「実際には行政が措置控えをしているのではなく、措置について知らない、誤解をしている、というのが正しい状況」としたうえで、「その点が行政と我々の話し合いのネックポイントになっている」と指摘。

 「施設側は措置控えだと訴え、行政側は限られた財源のなかで他制度の利用を優先せざるを得ないという構図では、いつまで経っても平行線です。解決につなげるには、ロジックの間違いを行政に理解して貰うことこそが大切です」(前野さん)

 そこで県と老施協の合同で作成した『養護老人ホーム 入所措置マニュアル』をもとに、行政との折衝を実施。

 「その際も、措置控えという言葉はあえて使いません。その表現は違うという共通認識が、我々にあるからです」(前野さん)

 

 

“ともに動く”が
地域の未来を変えていく

つながりが支える 途切れない暮らしの基盤

 施設単体で行政の動きを“待つ”のではなく、地域で連携し、団体として行政に出向き、一緒に状況を変えていく。その取り組みによって、明光園のある大川市は措置率を高めるとともに、基準改定とは別に、措置費の上乗せ・補正を実現。入所者の生活水準維持につなげています。

 「地域にあるほかの養護老人ホームと良好な関係を持つことは、入所者にとっても利点があります。例えば、入所者のなかには一つの場所に長くいられない方もいます。そういう方は入所して1年ほど経つとさまざまな要求が出てきて、突然出て行くこともあります。そこで私たちは、職員があらかじめ特性を把握し、移り時だと判断した段階で他施設に打診をし、受け入れていただく形をとっています。実際、このように複数の養護老人ホームを行き来しながら、長年暮らしておられる方もいらっしゃるんですよ」(澁田さん)

 施設同士の連携があるからこそ、切れ目のない支援を細やかに届けられるのです。

 

信頼を重ね、 行政とともに歩む支援

 「なぜそこまでするのか」「それは行政の仕事では?」。時折周囲から投げかけられるそんな言葉に対し、前野さんは「今はそんな時代ではありません。道をひらくためには、従来の枠組みを超え、協働することが肝心です」と強調します。

 「措置についても同様です。例えば、行政の担当者が異動すると『養護老人ホーム 入所措置マニュアル』を持って新任者のもとに説明に行きます。そうやって関係性を築くことで、先方も我々に真剣に向き合ってくれるようになりますから」

 同時に、行政からの依頼にも、できる限り応えるのが明光園の姿勢です。

 「引きこもりや8050問題など、従来の枠を超えた支援を必要とするケースには、『重層的支援体制整備事業』(属性や制度の枠を超えた包括的支援)として積極的に関わっています。行政とともに地域課題の解決に挑み、ウィン・ウィンの関係を育むことは地域で支える仕組みを強くしていくうえで欠かせません」

 

地域に開く、 福祉の新しいまなざし

 自ら出向き、協働する。その姿勢は、明光園の母体である大川医仁会が行う地域公益活動にも生かされています。地域の清掃活動や近隣住民との合同避難訓練など、さまざまな活動を行うなか、同会では令和5年から地域の中学校と連携した不登校児の継続的な支援も開始。この取り組みは、老健事業のモデル施設にも位置づけられ、注目されています。(詳細はコラム参照)。

 「行政や他施設だけでなく、地域住民ともつながることで時代のニーズを知ることができます。そのうえで必要な支援を届ける。そこにこれからの養護老人ホームの使命があると思っています」(前野さん)

 

 

【COLUMN 】大川医仁会が行う 地域公益活動 不登校児への 継続支援
大川市では少子高齢化による人口減少や空き家の増加、高齢者を支える資源の不足などの地域課題に加え、近年は不登校児の増加も指摘されています。
その背景には、市内中学校の統廃合や核家族・共働き家庭の増加、不登校児を受け入れる場の減少など、複合的な要因があります。 こうしたなか、明光園では教育支援センターなどと連携。不登校児の社会参加のきっかけづくりや居場所づくりを念頭に、法人の祭りや忘年会などの催しに子どもたちを招き、交流の時間を設けています。
「取り組みをはじめるにあたっては、教育委員会との意見交換やスクールソーシャルワーカーからの研修を通して、不登校児の現状理解に努めました。今後は“学校に行く感覚”で施設に来てもらい、高齢者との交流を図れれば」(澁田さん)。
「この取り組みをもとに、将来的には大川市全体で子どもが行きたい場所を選べる受け入れマップを作成したいと思っています」(前野さん)。 多感な時期に福祉の現場に触れることは、他者へのまなざしや支え合いの感覚を育み、将来の担い手づくり―いわば「2040年問題」への小さな種まきにもなるはず。未来の福祉人材の育成も視野に、現在、明光園では不登校児への理解をより深めるため、地域住民も参加する研修の開催を検討しています。
 
文=池田佳寿子