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第63回技能五輪全国大会 エキシビションレポート 介護職の技能を可視化する、 新たな人材育成のかたち



技能五輪を介護の専門的技能を
社会に示す新たな舞台に

シルバーサービス振興会では、介護キャリア段位制度や介護技能実習評価試験など、技能の標準化に長年取り組んできました。その知見を生かし、厚生労働省の推薦を受けて介護競技実施の協力団体とともに今回の実施に至りました。
技能五輪全国大会はもともと製造業中心の「ものづくり」の大会でしたが、今や対人サービスも重要な技能領域です。そのなかに介護職種が加わったのは、今後増大する介護需要に応える人材を、継続的に育成していくためです。特に若い世代の方に、介護という職業の専門性に着目してもらうこと、介護職が社会的評価を得て、専門的技能を競うきっかけとなることは、大きな意義があると考えています。
競技を通して、介護技能への 関心と理解を深めてほしい
実際の競技では、入浴・排泄・食事といった基本介護の場面で、利用者役との関わりを通じて技能を発揮してもらいました。根拠に基づく介護、基本介護技術の大切さが改めて認識されたと思いますし、エキシビション参加を通して、介護という仕事の社会的評価が一歩前に進んだと感じています。
一方、今回参加したことで、次回に向けての検討点も見えてきました。例えば、会場環境の影響で競技者が利用者役にかける言葉が聞き取りづらかったこと、プロセス評価の仕方と評価基準づくりの難しさなどです。こうした課題を踏まえ、より実践的で質の高い競技として成熟させていきたいと考えています。すでに発表されているとおり、来年度からは技能五輪への正式エントリーが予定されています。今後は選考方法や審査体制のさらなる充実を進め、より多くの若者に挑戦の機会を届けたいと考えています。競技大会への参加が、介護職を志す若い人たちの目標になり、現場でのやりがいを支える登竜門となることを期待しています。

競技が映し出す、
介護の専門性と成長力
曲げ板金や左官など、さまざまな職種が専門技能を競い合う愛知県国際展示場「Aichi Sky Expo」展示ホールD。その入口そばの一角に、介護職のエキシビション会場が設けられました。そこには入浴・食事・排泄の3介助を想定した実技エリアが整えられています。
入浴介助なら、パーテーションで仕切られた脱衣室と浴室にシャワーや洗面台。排泄介助も、居室とトイレの間にパーテーションを設け、居室には電動ベッド、トイレには便器。食事介助なら、テーブルと肘付き椅子、配膳カウンターが並びます。競技者たちはここで設定されたアセスメントシートをもとに、3課題を順に実演を行うのです。
利用者像は3課題とも共通で、87歳・要介護2。右上下肢不全麻痺、右肩関節に拘縮ありで、ショートステイを利用中という設定です。
基本の徹底が光る 現場力の競演
「では、始めてください」。運営スタッフの合図で、競技者はベッドで横になる利用者のそばへ。「こんにちは。本日担当する○○です。ご体調はいかがですか?」。挨拶と声かけの後、利用者にトイレに行くように促し、スライディングボードを用いてベッドから車椅子へ移乗します。外していた足置きを戻し、両足を乗せてからストッパーを外し、トイレへと移動。競技用にスケルトン仕様となったトイレで排泄介助を行い、手洗いを経て再びベッドサイドへ――。
一連の様子を3人の審査員が見つめ、評価シートにチェックを入れていきます。利用者を不安にさせない対応ができているか、介助手順はスムーズか、自立支援の促しはできているか、利用者のプライバシーは守れているか等々。入浴・食事・排泄の3大介助のほかに、移乗や移動、体位変換、そして状況に応じた対応なども重視され、実務経験の長い競技者ほど基本に立ち返る力が問われます。実技そのものは、普段行っていることばかり。けれど、審査員はもちろん、多くの観客や取材クルーの視線を受けながら行う非日常の緊張感は格別。25分という制限時間を使い切った後の競技者の笑顔には、安堵と誇りが浮かんでいました。



取材・文=冨部志保子 撮影=渡辺憲男