はじめての人も
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審査員からの創作のコツ審査員からの創作のコツ

エッセイはどう書く?
写真やキャッチフレーズで大事なことは?
審査員の先生に、
作品づくりのコツについて伺いました。

作文・エッセイ部門/手紙部門

作家・エッセイスト

岸本 葉子さん

個別の出来事を通して、
普遍化できる
伝えたいことを書く

エッセイや手紙の短い文章の中で読者に共感してもらうにはどうしたらいいのか? 長年、作家・エッセイストとして活躍し続けている審査員の岸本葉子さんに、魅力的な文章を書く技術について聞きました。

取材:岡田千重

借り物の言葉に頼らない

初めてエッセイを書く人は、何を意識したらいいでしょうか?

まず、特別なことを書こうと気負いすぎない方がいいですね。細かな表現も、格好つける必要はありません。新聞やwebで印象的な記事を読むと、ついそれに合わせてしまいがちです。でもそれは自分の中から出た言葉ではないんです。
世の中にあるキャッチフレーズやよく見聞きする言葉を当てはめない。借り物の言葉を使わないことが大切です。そうすると、この状況を一番言い表す言葉はなんだろうと考えるので、自分とゆっくり対話することができるんです。

文章力を磨くにはどうしたらいいですか?

結局は論理的であるかどうかで読みやすさが変わります。自分でしっかり事柄と事柄をつなげて組み立てる。すると、作品内で読者が歩く道筋ができます。書き手と同じ思考の過程をたどり、同じ経験を味わってもらえることを意識できれば、あとは正確に言葉を使えるかどうかだけです。
語彙力で差が出るとかはなく、学校で習った国語力があれば十分です。文学作品に触れて表現の引き出しを増やすといった努力は、もっと後ですればいいことなんです。

400字×3枚の中でのバランスが難しいです。

まず、ここを中心に膨らませて描こうというエピソードを決めましょう。その上で、「今から3年前に私の祖母を介護していた時だった。当時祖母は80歳で、自宅で車いす生活を送っていた」というように、これから書くエピソードが読者にちゃんと分かるような基本情報を手際よく出しておきます。
「いつ、どこで、誰が、どのように」や「年齢、関係」などは最初に知らせ、途中で場面や時期が変わるなら「そんなことがあってから一年後、祖母は別の施設に移った」などはっきりと書く。こういう基本を押さえていない人が意外と多いです。

作品の良い締め方はありますか?

つたない言葉でも、読み手に何か伝える姿勢があるといいですね。たとえばコンビニでバイトをしていたとして「言葉使いのひどい人が来て残念な一日だった」では駄目です。同じエピソードでも「いろんな人と接すると、ひどい言葉使いの人も来店する。だけど、良い出会いを諦めず明日もコンビニのレジに立とうと思った」となるほうがいい。 文章を読むには時間とエネルギーがいるので、ネガティブなメッセージで終わらせないのは最低限の礼儀だと思います。
個別の事柄を書くけれど、そこから普遍へとつながる道筋をどこかに設ける。私以外のみんなに伝えたい何かがあるか?という視点で考えるといいですね。

具体的に書く=五感を刺激する文章になっているか?

手紙部門の100文字を上手く書くには……

綴られる想い自体はありきたりでもいいと思います。でも、その想いを書くに至った出来事でオンリーワンを目指すと良いですね。
手紙部門は100文字しか書けないので、挨拶などは少なめに、状況をいかに具体的に書けるかが共感のポイントです。

100文字の中で具体的に書くにはどうしたらいいですか?

たとえば、「おばあちゃん、いつも美味しいご飯作ってくれてありがとう」では具体性がない。伝えたいメッセージ自体が、ありがとうやごめんなさいといった抽象的なことでもいいけど、「子供の頃、おばあちゃんが作ってくれた肉そぼろ弁当の蓋を開けると、全面が茶色で少し恥ずかしかったけど、すごくおいしかった」というように、読んで映像が浮かび唾液が出る。視覚や嗅覚や感触といった、五感のどれを書くかを検討した上で、イメージが沸くように描くといいですね。ここはエッセイと共通するところです。

応募者にメッセージをお願いします。

介護を経験した方は友達に会ったらこれを話したいということを書いて下さい。経験のない方も、自分がもし介護を受けるならどうだろうとか、周りの介護の様子を見て感じたことがあったらぜひそれを書いてください。

岸本葉子さんと羽田圭介さんの
記念対談も参考にしてみてください。

良いエッセイを
書くコツ

コツ1

書く前に人に話してみよう

書きたい内容を身近な人に話してみると、何を言うとウケたか、どこまで言うと相手が興ざめのような顔をしたか、などが分かります。その中で「それはいつの話?」とか「おばあさんはどんな病気なの?」とか聞かれたら、そういう情報がないと伝わらないのだと分かるし、どこから説明し始めるといいかもわかります。

コツ2

書き始める前に、まずは設計図を

最初に必ず設計図を書きましょう。一番言いたいことを紙の真ん中に書き、その周りにチャート図のように関連する事柄を書いて矢印で結びます。
そうしないと規定の文字数が埋まるか不安だから、導入で無駄にたくさん書いてしまいやすくなり、結果読者に伝わりにくくなるので気を付けましょう。

コツ3

無駄な情報は書いてないか見直しを

エピソードに対して不要な情報が書かれた作品をよく見ます。たとえば「祖母は九州の有名な温泉街の出身で……」と書くと、読者はこの情報は大事で「祖母がもう一度温泉に入りたいと言っている」などと後で出てくるのかなとうっすら考えてしまう。それなのに出てこないと、伏線が回収されていないと思われます。
「伝えたいことに関係の薄い情報はないか?」という視点で見直すことが大事です。

岸本 葉子さん
[ 作家・エッセイスト ]

1961年神奈川県生まれ。東京大学教養学部卒業後、執筆活動に入る。生活エッセイや旅のエッセイを多く発表。俳句にも造詣が深い。