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審査員からの創作のコツ審査員からの創作のコツ

エッセイはどう書く?
写真やキャッチフレーズで大事なことは?
審査員の先生に、
作品づくりのコツについて伺いました。

キャッチフレーズ部門

コピーライター

勝浦 雅彦さん

固定概念にとらわれず、
自分の体験を
もとにした言葉を

コピーライターとして活躍しながら広告関連のコンテストの審査員を務め、学生や社会人に向けて広告コピーやプレゼンテーションも教えている勝浦雅彦さん。今回、キャッチフレーズ部門を審査いただくにあたり、良いキャッチフレーズをつくるために気を付けることをうかがいました。

取材:岡田千重

しっかり調べて介護自体を好きになる

キャッチフレーズを作る上で、一番大切なことは?

キャッチフレーズを一言で表すと「最短距離で人の心を動かす、目的を持った言葉」なんです。だから、“この言葉が誰の心に響いて、どう行動してほしいのか”と考えながら書く。その言葉から、みんなが介護業界に興味を持ち、魅力を感じ、新たな発見がある。キャッチフレーズには業界をアップデートさせていくものなのです。

まず、介護について調べることが大事ですね。

キャッチフレーズの基本は、「(書く前に)調べて、好きになること」。商品やサービスを扱う会社・団体のことを調べて、知って、好きにならないと深く響く言葉は書けないんです。いいコピーを書く人は、みなしっかりと調べ込んでいます。全く関心がなかった状態から調べて書くという行為は「愛」なんです。言葉を紡ぐためには、ベースに愛が必要だと思いますね。

勝浦さんご自身が介護経験者ですが、やってみて気付かれたことは?

僕は両親の介護を経験しましたが、たとえば父は亡くなる数日前まで寝たきりではなく、会話もでき、自力で歩いて生活していました。余命があまりないという医師の言葉が信じられなかったぐらいです。
だから、介護イコール寝たきりではないし、一般的にイメージする大変さや苦しさとはまた違う一面もあります。あまり固定概念にとらわれず、幅広く考えてみてほしいですね。

介護経験のない人が書く場合はどうしたらいいですか?

自分視点と他人視点を持つことが大事です。僕は介護経験があるので、自分視点で語ることができます。でも、ヤングケアラーは別として、高校生や大学生、若い方なら介護経験がないかもしれない。そういう場合は、祖父母の介護をしていた両親や、介護職員のかたはどう考えていたのかと想像してみるといいでしょう。
また、自分は介護について何を考えてきたのかと思考を巡らせてみましょう。もし何も考えて来なかったのなら、なぜそうなったのだろうかと考える。それが高校生のリアルなら、そこから見えてくる介護の問題点もあるわけです。

人やサービスに憑依して書く

自分視点より、他人視点が難しそうです……

僕も仕事上、毎回知らない商品や業界を担当します。その場合、企業担当者や消費者の立場になり切って憑依して書くようにしています。出来る限りお店や現地に足を運ぶし、体験できることはやってみます。介護なら、ボランティアを1日でも経験してみるのもいいと思います。自分なりの突っ込んだ情報収集があると、言葉の説得力が違ってきます。

人の心に響くのはどんな言葉ですか?

たとえば「介護はありがとうが基本です」と標語のように書くより「ほとんどしゃべれないその人が言ってくれたありがとうは心に残りました」と具体的に書くことで、どんな状況においてかわされた気持ちや言葉なのかを想像でき、響きやすくなるはずです。介護というものを他ならぬあなたの目線でしっかり見つめた時に、響く言葉は生まれると思います。

キャッチフレーズ部門の応募者にメッセージをお願いします。

まだまだ介護って大変で苦労が多いと思われています。それをただ大変な場というより、いかに未来に向かって希望のある場にしていくか。そんな気付きや発見を与えてくれるキャッチフレーズを送ってください。
その言葉をきっかけに、現場が改善されたり目指す人が増えたり、本当に業界が変わっていく。良いキャッチフレーズは、介護の未来やそこにいる人たちを幸せにする可能性を秘めています。そういうことを意識しながら言葉を紡いでほしいですね。

良い
キャッチフレーズを
生み出すための
コツ

コツ1

調べたもの・思いついたものをフォルダに集めてみる

デジタル・アナログどちらでもよいので、調べたものや思いついたことをフォルダにどんどん入れていきましょう。言葉でも、絵でも、写真や映像でも何でもいいんです。同じテーマで収集しても、絶対にみんな同じフォルダにならない。そこにあなたなりの趣味、思想、哲学があらわれます。

コツ2

集めたものをもとに、自分がテーマをどう捉えているかをあぶりだす

集めたアイデアや情報を見ながら、一人ブレーンストーミングをしてみましょう。自分自身に「なぜこれを手がかりだと思ったのか」を問いかけるわけです。すると、自分は介護をおじいちゃんと家族の関係で捉えているな、尊い職業だと捉えているな、大変な仕事だと捉えているな、というふうに「表現すべきこと」の輪郭が見えてくると思います。

コツ3

なるべく短い文字数で表現する

長いのはお勧めしません。削って削って、これ以上短くできないくらいが理想のキャッチフレーズ。パッと見た瞬間に伝わる、切れ味の鋭い言葉がいいですね。

コツ4

「てにをは」だけ変えたような作品を応募しても意味はない

複数作品を応募するのであれば、なるべく切り口を変えましょう。切り口とは「視点」や「シチュエーション」のこと。語っている「視点」は、介護職員か介護される側か、高校生か大人か……。誰が誰に言っているのかを全部変える。
そして、介護職員さんの大変だけどやり甲斐のある瞬間、おじいちゃんが孫へ告げたリアルなメッセージ、興味のない高校生に介護ってかっこいいぜと参加を促すアクション等、いろんな「シチュエーション」で考えてみましょう。

コツ5

絵が浮かぶ言葉になっているか?

これは多くのコピーやキャッチフレーズのコンテストで共通して言えることですが、最初に簡単に思い付いたアイデアや、浅く考えた言葉は他人と被ることが多いです。誰かと被った作品はまるごと落とされると思いましょう。
最後にひとつだけ。いいキャッチフレーズは読んだ瞬間に情景や状況がぱっと絵として浮かぶものだと僕は考えています。そんな言葉を目指して、楽しんで応募してくださいね。

勝浦 雅彦さん
[ コピーライター・クリエーティブディレクター ]

法政大在学中に、シンボル校舎「ボアソナード・タワー」の命名者になり、学長表彰を受ける。約10年間の非正規雇用期間を言葉で乗り越え電通入社。クリエイター・オブ・ザ・イヤーメダリスト、ADFEST FILM最高賞、Cannes Lionsなど国内外の受賞多数。TCC会員。宣伝会議講師。法政大学特別講師。2022年に『つながるための言葉~「伝わらない」は当たり前』(光文社新書)を上梓。