読者は自分のことを何も知らない、
を前提に書くこと
作文・エッセイ部門と手紙部門で審査員を務める岸本葉子さんは、ご自身もお父様の介護経験があり、著書『週末介護』でその日常を綴っています。
今回は、「介護」というテーマで作品を作るにあたってどんなところを意識したらよいか、書き方のコツを伺いました。
思いばかりを書かず、エピソードを中心に
初心者も書きやすい形式はありますか。
- 岸本さん
- 最初に作品の背景、人間関係などの「基本的な情報」を提供し、そのあとに「追体験できるエピソード」を書き、最後に「なんらかの気づきを語る」のがスタンダードな形式です。
気づきや思いばかり書かれても伝わりにくいので、最初と最後は端的に書き、真ん中のエピソードを中心にするといいでしょう。
先生も介護経験があるそうですね。
- 岸本さん
- 85歳の父を5年間介護しました。介護は大変なイメージがありますが、私は父やきょうだいと関係を結び直すきっかけになったと思っています。また、認知が衰えていく中にも感情生活があり、父は不安や孤独と向き合うという人生最後の大仕事をしているのだとわかりました。こんな大切な気づきを得ることもあります。
介護経験がない人はどうしたら?
- 岸本さん
- たとえば、自分が将来年をとったらどうなるか、どんな手を借りるかを想像する。家族や偶然出会ったお年寄りでも、あのとき、こんな気持ちだったんじゃないかと思いに寄り添ってみましょう。幅広くとらえるといいですね。
絵が浮かぶように具体的に書くこと。
手紙部門の作品を書くポイントは?
- 岸本さん
- 具体的に書くことです。
「元気でね」「ありがとう」と言いたい気持ちは真実でも、それだけでは状況をどう想像していいかわかりません。
でも、「テストで100点とったよ」や「ひまわりが咲いたよ」のように具体的な出来事を書けば、絵が浮かびますよね。
文章を読んで絵が浮かんでくると、そこからいろいろなことを想像できます。それがインパクトにつながります。
先生は作品のどこを一番見ますか。
- 岸本さん
- これは手紙部門、作文・エッセイ部門を問わずですが、やはり具体的であるかどうかを見ます。
具体的に書くには、心情だけでなく、具体的な情景、動作を書く必要があります。
品詞で言うと、「うれしかった」は形容詞ですね。「大変だ」は形容動詞になりますが、これだけだと具体性がありませんよね。
そうではなく、「私はおかゆを食べた」のように、名詞と動詞で書くと具体的になります。
文章がわかりにくいと言われました。
- 岸本さん
- 必要な情報が書かれていないのかもしれません。「読者は自分の状況を知らない」ということを大前提として書いてみましょう。
また、論理的でないのが原因かもしれません。この場合は、事前に書きたい項目を箇条書きにして、矢印でつなぎ、論理的かどうかを確認します。 皆さんもこの方法で論理的に書いてみてください。
岸本葉子さん
Kishimoto Youko
1961年神奈川県生まれ。東京大学教養学部卒業後、執筆活動に入る。生活エッセイや旅のエッセイを多く発表。俳句にも造詣が深い。