はじめての人も
挑戦してみよう
エッセイはどう書く?
写真やキャッチフレーズで大事なことは?
審査員の先生に、
作品づくりのコツについて伺いました。
作文・エッセイ部門/手紙部門
作家・エッセイスト
岸本 葉子さん
いろんな物差しを持ち、
独りよがりを避ける
エッセイストとしても日々活躍されている岸本葉子さんに、エッセイ部門と手紙部門の応募作品を書くコツや、ありきたりにならない、自分だけの作品にするためのポイントをお聞きしました。
取材:岡田千重
介護の大変さを伝えるエッセイではない
介護をテーマに書くとき注意すべきことは?
例えば、介護者の家族の方が書く場合なら「介護は大変」に終始しない方がいいですね。実際に大変なのですが、みんな大変なのでそこばかりを書いても伝わるものがないんです。それよりは「大変な中にも気づきや面白さがあった」の方が良いです。
また、介護職の方はどうしても「お世話させて頂いている~さん」と丁寧にへりくだりすぎる傾向がある。「私がお世話している~さん」くらいでいいと思います。
書いていて、本当に面白いのかな?と不安になったときは……
まず、テーマや切り口で面白くしようとすると失敗します。まず、人の考えつくことは大差がないという前提に立ちましょう。面白く書いてやろうとするより、その出来事を本当に自分が面白がっていることが大事なんです。そういうことを選べば、面白くしようとせずとも自ずと面白くなるものなんですね。
そして、「しあわせとは?」とか「~とは」という抽象的な発想をしないことです。それは置いておき、自分や自分の出来事に落とし込んで考えるのが大事です。
10代や若い世代が応募される場合もありますか?
結構ありますよ。10代、20代の若い人で経験が浅くても、親の世代より先入観がなくて素直な良い作品がたくさんあります。
例えば、「祖父と会ったことは2回だけで写真でしか知らなかったけど、親が毎晩祖父のことを一生懸命話しているのを聞いて、自分も手伝わなきゃと思った」でもいいんです。介護にまつわる感じたことを書くエッセイなので、介護が全然できなかった、やらなかったという、距離や戸惑いのある話でもいいと思います。
毎年、審査をされていて気になることはありますか?
エッセイは経験からの気づきを書きますが、そのことを世の中にある出来あいの言葉にあてはめているように感じるときがあります。実際に使われていたわけではありませんが、「ナンバーワンよりオンリーワン」とか「みんな違ってみんないい」とか、流布してるメッセージを使うと、読む側は本当に作者が経験から感じたのかな?と思う。そこは気を付けた方がいいですね。
3枚で上手くまとめるには……
出来事の中で、一番面白かったことや意外だったことをまず絞ります。そして、そこを伝えるために、最小限必要な説明については淡々と手際よく出していく。また、エッセイは変化や気づきを書くので、3枚だと1シーンではもたないんです。最初の日を書いて、その翌日も書くとか、バルコニーでのシーンを書いて次は別の部屋での出来事を書くとか、何か動きや流れが必要です。
そして「祖父は自分の歯で噛めないのに、僕にいつも醤油せんべい買わせに行く。それがとても腹が立つ」ということを書くなら、そのいきさつは簡潔に書いて「実は噛めなくてもお湯でふやかして食べていた。その醤油の味にはこういう思い出があったからだ」という部分をしっかり書く。これがわかったからおじいさんが理解できたんだ、という部分の方が大事です。
書く前に構成を考えてから書く方がいいでしょうか?
その方がいいですね。私はまず、メモにキーワードを並べて、矢印でつないでフローチャートのようにします。付せんを使って入れ替えたりするのもいいと思います。そして、ある程度考えや構成がまとまったら紙に箇条書きにして、A4用紙3枚にあらすじのように書きます。それが結果的に3枚くらいの作品になる感覚があります。
推敲のポイントを教えてください。
一時間でもいいから置いて、書いた興奮が冷めてから読むと、わかりにくい表現に気が付きます。また、自分は祖父が65歳と知っていても、世の中には祖父が70歳、80歳の人もいて様々です。だから、作者の状況はどうなのか。読む側がちゃんとわかるような情報を入れて書きます。
私は、まず手書きで書いた本文をパソコン上でまとめて文章にし、それを印刷して直して、またパソコンで直してと、最低でも3回は直します。それでもうまくいかなければゼロから書き直すこともあるし、4回、5回と書き直します。私の様に、何十年と毎年エッセイを書いてきていてもそのくらい直すので、やっぱり初心者の方は1回で書き終わろうとしないでほしいですね。
エッセイをたくさん読んだ方がいいでしょうか?
エッセイというより本全般を読む、新聞を読むなどするといいです。新聞を読むと世界を幅広く知りいろんな物差しを持てるので、自分の面白いと思ったことが独りよがりじゃないかがわかります。
例えば「宅配便の人が、昔は緑色の制服だったのに最近は黒色の人もいて、誰かわからず怖いと思った」と書こうとしたら、物流業界における人手不足や2024年問題を知っていると、ただ怖いと書くのではなく自分の体験した出来事と漏れ聞いた社会のことをつなげて考えることができる。実はエッセイは文章技術を磨くより考える力の方が大事なんです。
論理的思考を磨くのが難しいです。
論理は人を論破するためにあるんじゃなくて、全然違うところにある私の事柄と、その宅配便の2024年問題へと繋げる力のことなんです。これを養っていかないと、全部「そして、そして、そして」で繋がるだけの作品になる。「けれども」とか、「そうは言っても」といろんな繋がり方を見出すと、その文章に流れとかうねりができる。
また、自分の出来事だけど、自分以外の誰かにも当てはまるところを見出すといいですね。自分語りを延々とするのではなく、その読み手に「私にもちょっと関係あるかも」と思ってもらうことが大事です。
具体的な内容を語りかけるように
手紙を100文字でまとめるコツは?
何か1つ大事なシーンが必要です。手紙で伝えたいことを突き詰めると「ありがとう」や「ごめんなさい」になるんです。だから、何にありがとうなのかが大事。「ポケモンカードを一緒に集めてくれてありがとう」とか、「足りない物があった時におじいちゃんが自転車で買いに行ってくれた」とか、あのときのあれがうれしかったという具体性が大切です。「介護作文・エッセイ部門」同様に手紙の相手に伝えたい事であると同時に、読者にも伝えるわけだからそこも意識しましょう。
手紙なのであまり固く書かない方がいいでしょうか?
そうですね。手紙は相手と少し距離があるので、だからこそ普段言えないことを語りかけるつもりで書くといいです。
最後にメッセージをお願いします!
「介護にまつわる物語」でも「おじいちゃんおばあちゃんに伝えたいこと」でも、いずれの場合も、人それぞれに想うことや経験が違うと思います。是非自分だけの物語を寄せてください。
良いエッセイを
書くコツ
コツ1
題材は自分基準で
自分が思ったことや感じたことを素直に書く方が、読者の心に響いて共感を呼ぶ。書く前から世間の評価を気にするのではなく、題材や内容は自分基準で本当に書きたいと思えることを選ぼう。
コツ2
書く時は他人基準で
実際の文章を書く時には、他人基準で書く。ある程度の基本的な情報は入れないとわからないので注意しよう。自分を知らない人が読んで伝わるか。時間を置いて客観的な目で確認することが大事。
コツ3
結びはさりげなく
最後に大袈裟なメッセージがあると、押しつけがましくなり読者は引いてしまう。上から目線にならない文章を心がけ、最後は自然にすっと終わらせたい。その方が作品に余韻が生まれる。
- 岸本 葉子さん
- [ 作家・エッセイスト ]
1961年神奈川県生まれ。東京大学教養学部卒業後、執筆活動に入る。生活エッセイや旅のエッセイを多く発表。俳句にも造詣が深い。