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審査員からの創作のコツ審査員からの創作のコツ

エッセイはどう書く?
写真やキャッチフレーズで大事なことは?
審査員の先生に、
作品づくりのコツについて伺いました。

キャッチフレーズ部門

コピーライター

勝浦 雅彦さん

未来に向かって
希望のある言葉を

コピーライターとしてつねに第一線で活躍されている勝浦雅彦さん。コピーライターの登竜門・宣伝会議賞の審査員も務め、多くのプロを育ててきました。そんな勝浦さんに、魅力的なフレーズを生み出すコツをお聞きしました。

取材:岡田千重

最短距離で人の心を動かす

前回の審査についての感想を聞かせてください。

 前回の応募作を改めて見直してみたのですが、全体的にレベルがとても高かったです。介護への関心が年々高まっているのだと感じました。ただ、標語のように無理にまとめようとして内容がおろそかになっている作品、逆に長すぎてほぼ文章になっていたり、変に難しい言葉を使って伝わりづらくなっているものも多く見受けられました。名作キャッチフレーズって、そのほとんどが小学生レベルの語い力でも理解できる言葉で出来ているんです。誰にでも伝わる平易な言葉を使う方が、広く速く伝わるのでおすすめです。

標語とキャッチフレーズの違いとは?

 標語というのは、ある限定されたコミュニティの中で共通の考えとして伝わればいいもの。主に内向きの言葉です。「みんなニコニコ明るく楽しい我が町」は、その町の人にだけ伝わればいい。標語というとなぜか五・七・五などの定型に揃えようとする人も多いですね。でも、キャッチフレーズは「最短距離で人の心を動かす目的を持った言葉」だと僕は定義しています。主に外の世界に向かって放たれるものです。だから、無理に定型に合わせる必要はありません。「目的に対して最適な言葉」を見つけ出し、なるべく短く言い切る。理想は20文字以内でまとめられるといいですね。まず「その言葉によって誰の心をどう動かしたいのか」という「核の部分」を考えてみてください。

その「核の部分」がないと、そもそも良い作品は書けませんね。

 流行りの言い回しを使ってみたり、言葉のリズムを合わせるのも大事ですが、それよりも、浅い考えだと出てこない “強い言葉”があるといいですね。それがしっかり伝わった瞬間に人の心は動くものなのです。
例えば、おばあちゃんの恋バナで聞いた「意外な言葉」とか、カレンダーに花マルと共に書かれていた「ある言葉」が、実はとても大事な意味を持っていた…とか、介護の現場にはこういうことがあるんだ!という新鮮な発見がほしい。そこがあると評価が高くなります。
 介護に対しての先入観を取り除き、読んだ人の世界を広げ、未来に向けた提言につなげる。このコンクールには、そういった目的があると思うんです。光ある場所へと導く招待状になるといいですね。

介護の現場や人を想像し、憑依する

プロの様に「強い言葉」を見つけるにはどうしたら……

 基本は想像力や憑依力ですね。介護する側、される側になり切ってみる。される側なら一日をどう過ごすのか、ずっとベッドの上で暮らす日々の生活に何があるのか。リアルで読んだ人が共感できる、情景をくみ取れる言葉を探すといいです。
 あとは言い換え力です。去年の応募作に「介護して 今は相方 名コンビ」という作品がありました。普通なら、介護する側とされる側は一方的な関係だと発想しがちですが、それを共に寄り添うパートナーと定義して、さらに「(漫才の)相方」と言い換えている。ここに「その人の視点」があります。私自身も両親の介護を経験していますが、実際の現場に苦労はつきものです。でもそれを大変だね、辛いね、と言ったところで何も始まらない。笑い飛ばすくらい、見方を変えて肯定的に楽しく表現することも大事です。

勝浦先生は宣伝会議賞をはじめ、コピーの審査をされています。いつもどこに注目しますか?

 キャッチコピーのコンクールで、多い時は7千点から1万点以上の作品を審査しています。それだけの数の応募があるので、どうしても似た表現が目につきます。ありきたりな作品は最初に落とされていく。だから、選ぶ時は世に氾濫している表現を避けて、どうやって平均値を越えてくるのかを見ています。
 審査する側も課題をしっかり頭に叩き込んで、自分ならどう書くか、多くの人はまずこういう発想するだろうな、というシミュレーションをしています。だから、応募作を見たら作者がどういう思考の山を登ってこの言葉やキャッチフレーズにたどり着いたかが、ある程度わかるんです。
 みんなの固定観念や既成概念をうまく覆しているか。決まりきった言葉でも、組み合わせでよりジャンプさせた表現になっているか。現状をうまく説明しただけの作品はあまり評価できません。せっかく強い言葉を見つけても、余計な言葉がくっついていたり、逆に言い足りなかったりして、響くキャッチフレーズにまとめられていない作品は思わず「もったいない!」と叫びたくなります。

どうすれば、伝わるキャッチフレーズへと昇華できるでしょう?

 強い言葉があっても、それだけでは足りなくて、人は感情を伴う物語があってはじめて心が動くもの。「ストーリーテリング」が必要です。書いた作品に物語があるか?を考えてみてください。そのキャッチフレーズが物語の書き出しとなり、情景や人物像が浮かび上がって感情移入することができるかどうか。そしてさらに、その物語の続きが見たくなるか?が大事です。

ストーリーテリングの良い勉強法を教えてください。

 うーん、よく聞かれるんですが難しいですね。僕自身も四苦八苦しています。キャッチフレーズを学ぶ時も歴代の名作をたくさん見なければならないように、本や映画など多くの質の高い物語に触れるしかないのかもしれません。そして、それだけに終わらず感想をメモしたり、SNSに書いてシェアしてみるといいと思います。ただ、コンクールに応募しようと決めてからたくさん読むのは大変だと思うので、今まで自分がどんな物語に心を動かされたかを分析してみるといいですよ。
 どんな長編の映画でも小説でも、作品全部が印象に残ることはなくて、後々思い出せるのはたいてい一場面か多くて二場面くらいですよね。その場面に自分はなぜ感動したのか、どこが良かったのかを見つけ、心が動いた瞬間をキャッチフレーズに生かせないかと考えてみる。「私はこの場面が好き」「なぜなら、〜だから」という理由を明確にしていくといいです。

自分の思考を客観的に知ることができますね。

 はい、実はここがみなさんの個性になります。日常的なトレーニングとしてやってみてください。世の中の事象を私はこう捉えた、ここをもっとこうしてみたらどうなるだろう?といった思考の軌跡をしっかり記録していくと、見えてくるものがあります。それは、いざコンクールに出す時に役立ちます。

キャッチフレーズ部門の応募者にメッセージをお願いします!

 去年の応募作を見て、作品の質とともに、応募してくる世代の幅広さに驚きました。もはや介護は誰にとっても避けて通れない問題なのだと改めて感じました。でも、日本の介護にはまだまだ暗いイメージがあります。どう未来に向かってポジティブに表現していくかが課題です。それは、このコンクールだけでなく日本全体で必要になってくることです。
 ですから、これからみなさんが紡いでいく言葉は実はものすごく意味があり、価値があります。ぜひ、より深く介護というものを考え、希望のある言葉とキャッチフレーズを生み出してください。それはただの言葉ではなく、未来への資産になっていきます。
多数のご応募を楽しみにお待ちしています。

良い
キャッチフレーズを
生み出すための
コツ

コツ1

テーマを明確にする

「誰に何を伝え、どうなってほしいか」を書き手が明確にして、ぶれないことが大事。テーマを見付ける練習法としては、映画鑑賞や読書をしたら「誰が何をする話」で「作者が伝えたいテーマは何か」を考えて、都度メモすると良い。

コツ2

SNSで発信する

映画や小説の感想は心だけにとどめず、SNSで発信し誰かとシェアしよう。その際、読んだ人がちょっと得したと思える工夫をする。独りよがりではなく、他人が共感し興味をそそられて読みたくなる内容を意識しながら書くと力がつく。

コツ3

古典に学ぶ

伝えたいことをより印象付けるには物語性が必要。そのためには、できるだけそのジャンルを代表する古典作品に触れておくと、今に続く表現方法の文脈が分かり、ストーリーテリングの土台がしっかりする。もちろん過去の名作キャッチフレーズや、コンクールに入賞した作品も一通り見ておくこと。先人の肩に乗ろう。

勝浦雅彦さん
[ コピーライター ]

法政大在学中に校舎「ボアソナード・タワー」を命名し学長表彰を受ける。電通入社後、クリエイターオブザイヤーメダリストなど受賞多数。TCC会員。宣伝会議賞審査員。法政大学特別講師。著書に「つながるための言葉」(光文社)