はじめての人も挑戦してみよう

審査員からの創作のコツ

エッセイはどう書く?
写真やキャッチフレーズで大事なことは?
審査員の先生に、
作品づくりのコツについて伺いました。

カメラマン・介護福祉士

カメラマン・介護福祉士

山田 真由美さん

被写体をじっくり
観察する気持ちで

介護福祉士の経験があるカメラマンの山田真由美さん。介護する側、される側の気持ちを捉えた撮影技術で注目を集めている。介護の現場をどうすれば魅力的に撮影できるのか……。そのポイントをお聞きしました。

取材:岡田千重

素材を絞るとメッセージが強まる

昨年の応募作を審査されて気づいた点はありますか?

 コロナ禍が落ち着いたせいか、全体に開放的で明るい表情の作品が増えた気がします。以前は窓越しに会うとか、会えない辛さや寂しさを撮影している作品が多くありました。また、介護施設の中でのイベント風景の写真も多かったけれど、外出したりお祭りに行ったりとアクティブなシーンが増えましたね。

最優秀賞、優秀賞は、人物の明るい表情が印象的です。

 最優秀賞の『花束より素敵な笑顔』は表情がとても良いですね。顔に添えた花束の位置がいいです。また、それ以外の不要なものが映っていないのも人物を際立たせています。逆光が効果的で人物と環境がマッチしている。優しさが伝わります。また、優秀賞の『笑う門には福来る』は、おばあちゃんの表情がチャーミングでおじいちゃんのちょっといたずらな感じも素敵です。『約束だよ』もおばあちゃんの表情がメインで、介護士さんは映っているけど少しだけにとどめたのが、よりインパクトを強くしました。

被写体を1つに絞るのは大事ですね。

 そうですね。Aさんという人物を撮りたいのに、その周りにBさんやCさんがいてはっきり写っていたら、どうしても余計な情報に目が行き印象が弱くなる。昨年の応募作はそういう作品が減った気がします。引きで全体を見ているというよりは、その人その人にフューチャーしている作品が増えました。素材を絞るとメッセージが強調され作品性が高まります。全体をまんべんなく映すと単なるスナップ写真のようになる。この辺が単なる記録としての写真と伝えたいことがある作品の違いかなと思います。

つい正面から撮りたくなります。

 たとえば、おばあちゃんが孫を優しく見つめているところを撮るなら、それを正面から全体を入れて撮ると、孫が主役かおばあちゃんが主役かわからなくなる。そういうときは、孫の背後に立ったり、おばあちゃんと同じ高さで横にポジションをとったり、孫を見つめる優しい眼差しがわかるように撮ってみる。おばあちゃんと孫、両方にピントを合わせるのではなくて、例えば孫ごしに見えるおばあちゃんの表情を撮れば主役が孫と一緒にいる、おばあちゃんだとわかります。いろんなアングルを試して、主役の気持ちが強調されるものを採用するといいです。

被写体の周りに複数の人やたくさんの物がある場合はどうしたら?

 たとえば、撮りたい対象以外の背景をぼかすというオーソドックスな方法があります。また、トンネルの入り口で撮ると奥が真っ暗になりますよね。建物、部屋の入り口付近に被写体がいて、そこに日が当たり奥に明かりがついていない場合、前の方にいる被写体にピントを合わせると、光の加減で背景が真っ暗になります。すると明暗ができてとてもインパクトがある。そういう場所や時間を狙って撮るのもいいですよ。奥行きがある場所だとそういう効果が狙えます。昼間の光が強い時間は背景が暗くなるし、夕方なら西日が当たってノスタルジックな雰囲気が出る。同じ場所でもさまざまな写真が撮れます。

表情を印象深く撮るコツは?

 光が強いと当たった部分は明るく、当たっていない反対側は暗くなります。でも、雨や曇りのような日差しの弱い日は全体に影が出ないんです。目のクマや顔のしわは影なので、そういう日はあまり目立たなくなる。しわの深さを強調したいなら明るい陽射しの中で陰影を作るといいし、逆に目立たせたくないなら曇りの日に撮るといいです。

審査をしていて気になる点はありますか?

 たまに、縦と横が歪んでいる写真があって違和感を覚えることがあります。どうしてもレンズにはゆがみが生じるので、広角レンズを使うと仕上がった写真が四隅に引っ張られた感じになる。被写体の向きと地面や背景に歪みが生じてきます。
 広角レンズは奥に広がるので、広がりを強調したいときには効果的です。空の広がりを見せたいなら下から煽るように撮る。足を長く見せたいなら足元から見上げるように撮る。意図的に使うのはいいですね。

リアリティのあるバランスで撮るにはどうしたら……

 撮る時から意識しながらカメラ位置を工夫します。座っている人を写すならば、実際と同じバランスに見えるような位置にカメラを置くとか、自分自身が座ったりしゃがんだりして高さを調節します。どうしても、楽な姿勢のままカメラの方を動かしてしまいがちですが、自ら動いてみましょう。プロは最高のショットを撮るために、しゃがんだり、寝転んだりします。楽ばかりしていてはいい作品は撮れません。

視点を変えて撮ってみる

介護をする側を撮る場合のコツはありますか?

 例えば、介護者側から見たおばあちゃんの顔とか、介護しているお母さんの背中だけ撮っているけど、その向こうにおじいちゃんがいて優しいまなざしを向けているとか。ピントを介護者に合わせて撮るといいですね。今はコロナが落ち着き、在宅介護の方は家でマスクをつけない場合が多いと思うので、介護者の表情も撮りやすいのではないでしょうか。介護される側の作品が多いので、是非そういう作品が増えるといいですね。

応募者にメッセージを!

 いい写真を撮ろうとするより、被写体のいろんな一面を発見するつもりで撮ってほしいです。可能なら1か月位追い続けてみるのもいいですね。今日は顔だけ撮る、次は目だけ撮る、その次は目線の先を追いかけてみる。ぼーっとテレビ見ていると思ったけど、好きな俳優さんが出てきている時だけ、目がハートになるとか、意外にこんなことが得意だったんだとか、撮影を通してちょっとした変化や気付きがあると嬉しいです。

良い写真を撮るためのコツ

コツ1

いろんな時間帯で撮ろう

 自然光の強さは朝・昼・夕・夜で全く異なる。可能なら、いろんな時間帯で撮ってみよう。人物の感情や表情がどんな明るさの時により強調されるのか。作品にあった世界観はどれがいいか探ってみよう。

コツ2

ボカシを上手く使おう

 被写体を遠くに置いてピントを合わせると手前がボケて立体感が出る(前ボケ)。逆に被写体を近くに置いてピントを合わせると背景の不要な情報がボケる。(後ボケ)どちらも被写体を強調できる表現。

コツ3

スマホは地面に垂直に

 スマホは広角レンズの特徴が強く、四方に間延びしやすい。撮る場合は、スマホを前傾させず地面に垂直に持って撮る。高さや位置を変えたいときは、スマホは垂直のまま体を動かして調整しよう。

山田 真由美さん

[カメラマン・介護福祉士 ]

介護福祉士、美容師、ケアマネージャーの資格を持つ写真家。高齢者向けにメイク・ヘアセットをして写真撮影を行うサービスを提供。