はじめての人も挑戦してみよう

審査員からの創作のコツ

エッセイはどう書く?
写真やキャッチフレーズで大事なことは?
審査員の先生に、
作品づくりのコツについて伺いました。

作文・エッセイ/手紙部門

作家・エッセイスト

岸本 葉子さん

現場に連れて行ってくれる
作品を

自分の伝えたい体験や想いを読者にどうすれば伝えられるか? もっと魅力的にするにはどうしたらいいか?
作文エッセイ部門・手紙部門の審査員・エッセイストの岸本葉子さんにそのコツをお聞きしました。

取材:岡田千重

その経験を具体的に

前回の応募作を審査されて感じたことはありますか?

 そうですね。状況がより多様になっているなと思いました。介護に関わる年齢層が若い方も含めて幅広く、その関わり方も多様です。食事や排せつといった生活面でのお世話だけではなく、介護する側がされる側の生きがいの実現に関わるという視点もありました。また、介護される側から書いた作品も見られて印象に残りましたね。

最優秀賞は介護される側からの視点で書かれていますね。

 最優秀賞の『与え、与えられるもの』は、介護者として生きて来られた方が、介護される側になったけれど、それでも自分がしてあげられることがある、という視点が良かったです。支えられる側であっても支えることができる。これが平等でありノーマライゼーションなのだという明確なメッセージがある。また、ノーマライゼーションという世の中に出回っている言葉を、実際の体験からちゃんと自分の言葉にしている。そして、そこだけで終わらず、作者自身も病と向き合っていく決意が感じられてとても印象的でした。

優秀賞は、ピアノを弾きたい姉に寄り添い一緒に弾いてあげるというエピソードが素敵でした。

 『共に紡いだメロディー』は、姉を支えた経験が、自分が辛くなった時には逆に自分を支えてくれているんだという作品です。支えたり支えられたりがつながり、介護は一方的にケアするだけではないことを気付かせてくれます。また、ともにピアノを演奏するシーンに臨場感があるのもいいですね。

作品に臨場感を持たせるコツはありますか?

 まずは、登場人物の発した言葉が入っていると、読者もその現場に行きやすいと思います。使いすぎるのも良くないですが、適度に入れるといいです。他にも、その現場をイメージできるように書いてあげることが大事です。演奏した経験を伝えたいなら、曲名や使った楽器、部屋の広さや雰囲気、聞いている人数などが具体的にわかるといいですね。枚数が少ないので難しいですが、出来る範囲で書きます。
 『輪唱』に出てくる「ハトポッポッ」と歌う様子も、読者が一緒に口ずさんでいるような気持ちになれる。追体験できる作品です。書くことを輪唱に絞ったのが良かったと思います。

具体的に書くという意味で、他に気を付けた方がいいことは?

 ありきたりなよく使われる表現は使わない方がいいです。作者だけのオンリーワンの言葉を使ってほしい。エッセイは、真面目に書こうとすればするほど思考が深まり、その過程を重ねていくとどうしても表現が抽象的になりやすいんです。それよりは、その時の経験をそのまま素直に書くほうがいいです。

そのまま書いたら面白くないのでは……とつい考えてしまいます。

 たくさんの応募作の中で埋もれたくないと思うかもしれません。でも、だからといって奇をてらうのではなく、介護の想いを共有しようというコンテストでもあるので、ご自身の体験を素直に書くのが一番です。そして、いい子ぶらないことが大切です。エッセイは人に読んでもらうものだからいい人に思われたい気持ちが働く。そうすると人の目が気になり、世の中に出回っている安全な言葉を使ってしまう。そこは気を付けた方がいいです。

エッセイとしてリズム感の良い作品にするにはどうしたら?

 まず一番はたくさん読むこと。そして次に書くことが大事です。読むとなんとなく人の作品から塩梅を探ることができる。読みながら、自分の趣味からすると固いなとか、この人はちょっと冗漫だなとか、この作品はちょうどいいなと感じるものがある。じゃあ、その中で自分はどの塩梅を目指して書こうかと考える訓練になるんです。実際にやってみると思う通りに行かないのが常ですが、回数を重ねるうちにできるようになります。

山場をまず決める

手紙部門の方で気になる点はありますか?

 手紙部門は文字数が短いぶん、より具体的で追体験しやすい作品が多いです。抽象的ではなく、書きたいところが絞り込まれていてとてもいいなと思います。こんな感じで素直に書いて送っていただきたいです。手紙部門で書かれていることが、エッセイでいうと山場の部分になると思います。

エッセイ部門の参考になりそうですね。

 そうですね、山場のシーンを決めて具体的に膨らませ、その前で状況を分かってもらうために必要な説明を入れます。そして、山場の後に少なめの気付きや考えを書いてまとめるとエッセイになります。山場の捉え方は、手紙部門の過去の受賞作を読んでみると参考になりそうです。エッセイだと肩に力が入って深く考えすぎてしまうので、まずは手紙部門の様に山場のシーンを中心にイメージしてもいいですね。

手紙は一気に書けそうですが、エッセイは構成を立てた方がいいですか?

 エッセイはいきなり書くより、まず箇条書きにするとか、一番書きたいことを中心に据えてフローチャートの様に書いてみるといいです。起こったことを時系列に並べていくと、書いてあることが均等になりどこを伝えたいかがわかりにくいので、メリハリをつけるといいです。

応募者にメッセージを!

 あなたの体験は誰にも否定しようのない大切なものです。だから体験した通りを素直に書いて応募していただきたい。全てがかけがえのないものだと思って読ませていただきます。皆さんのたった1つの物語に出会えるのを楽しみにしています。

良いエッセイを書くコツ

コツ1

メインエピソードは具体的に

一番伝えたい体験を絞りその状況を具体的に思い出してみる。場所、人、天気、景色、五感で感じたことを盛り込むと臨場感が出る。“書く”というより“描く”感覚でまずは書いてみてあとで削る。

コツ2

前段の説明は短く

メインエピソードまでの説明が長いと読んでいてダレやすい。読者に分かってもらうための最低限の説明に留めてなるだけコンパクトにする。ラストの結びもあっさり終えたい。メリハリがあるとメッセージが伝わりやすい。

コツ3

慣用句の使い方に注意

「耳が痛い」や「あいた口が塞がらない」といった慣用句やことわざを使うと抽象的でありきたりな表現になりやすい。同じ意味を違う言い方ができないか工夫しよう。それが自分だけの言葉となる。

岸本 葉子さん

[作家・エッセイスト]

1961年神奈川県生まれ。東京大学教養学部卒業後、執筆活動に入る。生活エッセイや旅のエッセイを多く発表。俳句にも造詣が深い。著書に『エッセイの書き方』(中公文庫)『私の俳句入門』(角川ソフィア文庫)など。