はじめての人も挑戦してみよう

審査員からの創作のコツ

エッセイはどう書く?
写真やキャッチフレーズで大事なことは?
審査員の先生に、
作品づくりのコツについて伺いました。

キャッチフレーズ部門

コピーライター

勝浦 雅彦さん

介護の新しい視点や
関係性を見つける

『つながるための言葉』や『ひと言でまとめる技術』など、伝わる言葉の技術をわかりやすくまとめた書籍で注目を集めている勝浦雅彦さん。伝わるキャッチフレーズを書くための技術についてお聞きしました。

取材:岡田千重

温かく気遣いのある表現を

昨年度の受賞作品に関する感想を聞かせてください。

 全体的にレベルは上がっていると思います。介護する側・される側のどちらの視点にも寄り添っている作品が上位に来ていた印象があります。最優秀賞の作品からは、介護される側の素直な気持ちが読み取れるし、する側も素直にその気持ちに励まされているところが、介護経験者たちの実感として近いのかなと感じました。
 優秀賞は、こういうこともあるんだろうなという情景が浮かび、表現もキャッチーだと思います。内容的に症状を想起させる部分もありつつ、それをファンタジーに変えているのがいいです。ただ、特定の誰かを想起させる言葉は、長い目で見た場合に世間でのイメージが変わる可能性があるので要注意かなと思います。
 優勝賞2つ目の作品は、介護される側の人が介護する人に買い物を頼んだのは、実は介護する人に贈るためだったという内容です。自分ではうまく伝えられないけど、感謝したい思いがあることを読み取れます。情景描写だけで二人の関係性が浮かび、とても上手いなと思いました。ありがとうという言葉を使っていないけど、ありがとうの気持ちが伝わります。

選ばれなかった作品のとくに気になった点は?

 そうですね。伝えたい内容や方向性はいいけれど、すみずみまでちゃんと考えてほしいと思うところがありました。表現が尖っていたり語呂が良かったりすると、コピーとしては一見、印象が強くなったようにみえます。しかし、何のためにキャッチフレーズを書いているかというと、介護という必ずしも明るい事だけではない現場で、介護する側・される側の新しい関係性や視点を見つけたい意図もあるわけです。安易に死を想起させたり、上から目線な印象を与えることを避け、温かく包み込むような気遣いのある書き方ができるといいですね。

介護に詳しくない人が応募する際、おすすめの勉強法は?

 まず主催者の情報が書いてある資料やホームページを見て、どんな理念でどんなことをしている団体かをきちんと調べてほしいです。ほかにも、その業界や介護経験のある人のブログや本、現場の生の声をいろんな接点から探るといいですね。
 また、介護経験やハンディキャップのある人を描いた映画を観る、小説を読むのもいいですね。僕は介護の仕事をした際、脳性小児麻痺の画家、クリスティ・ブラウンの半生を描いた映画『マイ・レフトフット』や山田太一さん脚本の障害者と社会との関わりを描いた『男たちの旅路・車輪の一歩』など、たくさん観ました。現実に近いドキュメンタリーものとエンターテインメントとしてコンテンツ化したものの両方に触れるいいですね。楽しみながら書きやすくなります。
 要介護者、ハンディキャップのある人と健常者との距離は、さまざまな個人による発信やそれを題材にしたエンタメ作品などが世に出ていく中で、少しずつ時間をかけて変化していくもの。その歴史の流れを知り、今自分たちは何を表現するべきかを考えてみてください。

自分に向き合い言葉を磨く

勝浦さんの著書『ひと言でまとめる技術』から、おススメの技術を教えてください。

 コピーは読んだ時に、意図が無駄なく伝わりパッと映像が目に浮かぶことが大事なんです。私はそんなコピーの書き方を「瞬間最大描写法」と言っています。まずは、あなたがコピーに書きたいと思った「もっとも心が動いた瞬間」「もっとも大事な物事」「もっとも象徴的なワンシーン」を思い浮かべて書いてみてください。それを言葉にしましょう。

書いた上でより伝わるようにするには……

 「つまり思考法」というのがあります。回りくどく書いても伝わらないから、一言で無駄なく伝えるのが大事です。そのためには、自分の書いたコピーに対して何度も「つまりこれってどういうことなの?」と問いかけ続けましょう。自分の中にもう一人の他者を作って自問自答を繰り返し、言葉の純度を高め、本質に近づけていきましょう。

伝わったうえで共感してもらえたら、さらにいいですね。

 起こった出来事やドラマを自分のこととして捉えてもらうのが共感です。だけど、実際の世の中は介護未経験の方が多いと思います。読んだ人に、「自分には経験はないけどそういうことがあるのだろうな」と思ってもらえることが大事です。また、書く側が未経験の場合は、介護の現場にいる人間に憑依してイメージを膨らませて書くと、それがコピーにも表れてくると思います。

勝浦さんの思う魅力的なコピーとは?

 介護の現場で、すごく重く考えていたことが実はそこまで深刻に考えるべきものではなく、知恵や工夫で乗り越えていけるものだった。あるいは、みんなが見過ごしていたけど、その視点で考えることでより介護や福祉が進化していく。そんな気づきがあればいいですね。受け手がコピーの中に、新たな希望や可能性を見つけられるかどうかがカギだと思います。
 魅力的な言葉というのは、相手に対して何かを投げかけた時に、気持ちや価値観を変化させる、または変化を促すような言葉だと思います。そういうメッセージをきれいごとでもなく悲壮感もなく、でも明るく書くことができたらいいですね。

AI技術が活用されていく中で、創作にどう挑めばいいと思いますか?

 既にAIで一定レベルまで言葉が書けてしまう世の中ですが、やはり人間が人間のことを想像して手と頭を動かして紡いだ言葉には圧倒的な力があると思っています。だから、新しい関係性やそこにいる人が救われるような状況を徹底的に想像しながらコピーを書いてほしい。それはきっとまだAIには紡げない言葉になるはずです。

応募者にメッセージを!

 言葉は自分の分身であり血肉だと思うんです。たとえ受賞しなくても、それを丁寧に生み出していく過程はとても勉強になります。今回の応募が終わった後でもいいので、書いた作品を自分のSNSでも発表してみるといいですね。誰かから反応があると励みになったり、次へのモチベーションになったりします。このコンクールに参加することに無駄はないと思うので楽しんでチャレンジしてください。

良いキャッチフレーズを生み出すためのコツ

コツ1

今の課題を見つけよう

 自分なりに今の時代の福祉や介護が抱える課題について考えてみよう。「もっと、こうならないのか?」という希望や「なぜ、こうなんだ?」という疑問もテーマとなる。時代によって、そこに存在する常識も変化する。

コツ2

100個は書いてみる

 1つのテーマで100個は書いてみる。一通り数を出せたら、似たものをグルーピングしたり、リスト化して他の言葉と繋げたりしてみる。そして全体を見てブラッシュアップしていく。

コツ3

人の反応を聞く

 応募する前に、自分の作品の感想を誰かに聞いてみよう。意見を聞くと自分の想いとの違いがわかる。ダメだと思った作品が意外と好評な場合もある。新たな発見があり推敲の視点や可能性が広がる。

勝浦 雅彦さん

[コピーライター]

電通コピーライター。クリエイターオブザイヤーメダリストなど受賞多数。TCC会員。宣伝会議講師。法政大学特別講師。著者『つながるための言葉』(光文社)『ひと言でまとめる技術』(アスコム)