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首脳介談

福祉の諸課題に対応するために 「創発の場」が必要

2021.5 老施協 MONTHLY

厚生労働省で生活困窮者自立支援法の制定などに尽力された古都賢一氏は現在、社会福祉法人全国社会福祉協議会の副会長として活躍されています。「社福の出資者である国民の皆さんに笑顔をお返しするような仕事をしたい」という古都副会長と介護や福祉のあり方、社会福祉法人の役割などを語り合いました(オンライン開催)。

古都賢一/社会福祉法人全国社会福祉協議会 副会長古都 賢一
社会福祉法人全国社会福祉協議会 副会長
ふるいち・けんいち
東京大学法学部卒後、厚生省(現厚生労働省)入省。
環境庁(現環境省)、総務庁(現総務省)、北九州市での勤務を経て、2015年4月より独立行政法人国立病院機構副理事長。19年3月、厚生労働省を定年退職。同年6月より現職。

平石 朗/全国老施協 会長平石 朗
全国老施協 会長

1年間で200年分の特例貸付を実施

平石 新型コロナウイルス感染症の影響を受け、収入の減少や失業などにより生活が困窮した世帯への生活支援費の特例措置の貸付で、全国の社会福祉協議会はご多忙とお聞きしています。

古都 貸付申請はこの1年間で200万件を超えました。これは通常の200年分にあたるほどの件数です。生活福祉資金貸付は本来、生活をどう再建していくかを対象者と対話を重ねながら丁寧に進めていく性格の制度ですが、今回は急を要するとされ、いかに速く進めるかが求められました。その結果、社協職員はさまざまな苦労をしています。

平石 介護現場のほうは感染症への対応で緊張を強いられ続けています。この1年余り、介護の現場は強い使命感や責任感で支えられてきましたが、この状況がさらに続けば、心が折れてしまう関係者が増えてしまうのではないかと心配です。

古都 「危機なのだからがんばれ」といった「べき論」で、現場のふんばりに頼り過ぎていなかったか。これについて検証が必要でしょう。100年ほど前に世界で猛威を振るったスペイン風邪以来の災厄と見ていますが、それでも医療や福祉の現場が回り続ける体制を考えることです。たとえば近年、保健所の機能を縮小してきたことは妥当だったのかなど、さまざまなことを点検し直す機会としなければなりません。

渋沢栄一像

制度に依存するのではなく制度を活用するという発想を

平石 コロナ禍は、人と人がつながることの重要性も浮き彫りにしました。現代社会における個々人は経済的に自立していれば、独りで生きていけるかのように思いがちで、他者とのつながりも意識しにくいかもしれませんが、実のところ、分業システムの中、多くの人に支えられています。そして人と人がつながり、支え合うことの意味、ひいては人として存在することの意味を確認できるのが福祉の仕事です。古都副会長は、こうした原点を踏まえて福祉行政に携わってこられたと思っています。

古都 厚生労働省時代、特養など200以上の医療や福祉の現場を見せていただき、実務の大切さは身に染みているつもりです。

平石 人と人がつながる仕事――この福祉の核を押さえておかなければ、労働生産性向上の議論をしたとしても、すれ違うことになります。もちろん、労働生産性向上は重要な課題です。介護業務のあり方を見直し、仕分けをして専門職はコアの業務に傾注する。機械化できる作業は置き換えていく。こうして生まれた時間的余裕を、高齢者との関わりに振り向けていくことが必要でしょう。

古都 昭和の大量生産・大量消費時代の製造業のように生産性の数字ばかりを見るのではなく、利用者の尊厳、すなわち「人として豊かな生をまっとうできたか」ということを大切にしていきたいです。福祉の現場には言語化されない、大切なことがたくさんあります。五感で利用者の小さな変化をとらえ、少しでも快適になれるよう工夫する。働く人が自負心と意欲をより持てるようにしていく。このような現場のあり方は、国が制度で何とかしてくれるというものではありません。制度に依存するのではなく、制度を活用していくという発想が求められます。

中央慈善協会の衣鉢を継ぐ全社協と全国老施協

平石 古都副会長は、厚生労働省で現場のやり方を優先できる仕組みの実現に取り組まれました。

古都 行政本位の色合いの強かった措置の時代から介護保険が始まり、利用者本位の考え方になっていくなか、複雑化・多様化したニーズを満たしていくには専門分化が必要だということで、ますます対象者やサービス類型を分けて法律をつくっていきました。福祉関係法令は、今や20に収まりません。では課題がすべて解決したかといえば、そうともいえない。私が立法に関わった生活困窮者自立支援法は、多様で複合的な問題に対応するため、支援の包括化を図るものです。

平石 多様な事業者が協働して福祉の進化をめざすという趣旨でしょうか。

古都 現場で社会福祉法人や株式会社、NPOなど多様な主体が各々得意なことを持ち寄り、自在に支援方法を組み合わせていく。連携・協働の場を“創発”※の場にしていこうということです。国もこの方向に追いつこうとしています。

平石 厚生労働省は「我が事・丸ごと地域共生社会」を打ち出しています。

古都 歴史を振り返れば、1908年に発足し渋沢栄一が初代会長を務めた中央慈善協会は、いろいろな立場の人が連絡し合い、情報を集めて交換し、より良い慈善救済事業を創り普及させていこうという場でした。その衣鉢を継ぐのが全社協であり、全国老施協もその流れの一つです。今後、福祉の未来に向けて語り合い、多様な事業に取り組んでいければと考えています。

平石 同感です。ぜひ連携を強化し、福祉や介護の魅力、社福の存在意義を広く社会に伝えていきたいと思います。

※創発:部分の性質の単純な総和にとどまらない性質が全体として現れること

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