プレミアム

福祉のかたち

住民を主役にしながらつくる「ごちゃまぜ」のまち

2021.12 老施協 MONTHLY

未来の"福祉のかたち"を多様な視点から考えていく本連載。今回は、地域のいろいろな人を巻き込んだまちづくりに取り組んでいる、社会福祉法人佛子園理事長の雄谷良成さんに、まちづくりにおける大切なポイントや、社会福祉法人が地域に関わることの意義についてお話しいただきました。

今月のゲスト

雄谷良成/社会福祉法人佛子園 理事長

雄谷良成/社会福祉法人佛子園 理事長
おおや・りょうせい
祖父が住職を務めていた行善寺(石川県白山市)の障害者施設で、障害児たちと寝食を共にしながら育つ。金沢大学卒業後、特別支援学級の教員として勤務したのち、青年海外協力隊員としてドミニカ共和国へ派遣。帰国後、北國新聞社を経て実家の社会福祉法人佛子園に戻り、「三草二木 西圓寺」「Share金沢」「輪島KABULET」などのコミュニティ拠点の立ち上げに関わりながら、地域のまちづくりに取り組んでいる


みんなが一緒に集まれる“居場所”が必要

──社会福祉法人という立場で、地域の人を巻き込んだ「ごちゃまぜ」のまちづくりに取り組み、成果を上げていらっしゃいます。そもそも、まちづくりを始めたきっかけは何だったのですか。

当法人は61年前、障害児の入所施設からスタートしました。障害児をどうやって地域の人と関わりながら、地域のなかで暮らしていけるようにするかということを考え始めたのが最初です。そのとき、障害児が受け入れられない最大の要因は、障害児が周囲からよく理解されていないことであると気づきました。そこで、お互いの理解を深めるために、障害児も地域の人たちも一緒に過ごせる“居場所”づくりを模索し始めたのです。
その後、障害者、高齢者、子どもと対象を広げて事業を展開していったのですが、医療・福祉サービスの専門性を突き詰める形で“縦割化”が進み、分断が起き始めました。サービスの専門性を高めること自体は悪いことではないのですが、時代とともに地域の力が落ちていくなかで、分断がさらに進むことに違和感を覚えました。

──それで、「ごちゃまぜ」の発想が生まれたのですね。

そうです。昔、地域でいろいろな人たちが「ごちゃまぜ」になって交流していたように、それぞれのサービスをつないで、関係者がお互いに関わり合うことができないだろうか。そうすれば、人も地域も元気になれると思いました。
そう思っていた頃、廃寺寸前になっていた西圓寺(石川県小松市)をコミュニティの場につくり替えたいと、地域住民から相談を受けました。そこで、「障害者や高齢者も受け入れる」という条件を住民に了承してもらったうえで、2008年、西圓寺をコミュニティセンター兼福祉施設として再出発させたのです。

──温泉も掘ったとか。

はい(笑)。カフェバーも併設されています。一般の住民も認知症の高齢者も一緒に温泉に浸かって、一杯飲んで帰る。ここでは、そんな「ごちゃまぜ」の光景が普通に見られます。再生した西圓寺が、いろいろな人たちにとっての“サードプレイス”になっていると感じています。

佛子園の「ごちゃまぜ」のまちづくり

主体は住民 法人は「黒子」に徹する

──まちづくりを進めるうえで心がけていらっしゃることはありますか。

私は、青年海外協力隊の一員として国際協力に携わった経験があり、そこで教わったPCM(Project Cycle Management)という国際支援の手法を重んじています。これは、支援者はあくまで黒子に徹して手出し口出しはせず、現地の人が主体となって問題解決に取り組むよう促す方法です。
西圓寺の再生に関わったときも、地元住民との話し合いの場で、私からは何も発言しないようにしました。「こういう場所になるといいね」と支援者側が言うと、住民がそれに誘導されてしまいます。当事者である住民が自ら地域の問題を認識し、どう変えていきたいのかを主体的に考え、決めることが大切なのです。

──社会福祉法人はサービスプロバイダーとしての役割を超えて、プラットフォーマーとして機能しなくてはならないということでしょうか。

そうですね。そうしたほうが法人のメリットも大きい。たとえば、プロジェクトを法人が主体的に進めてしまうと、住民から「何を勝手にやっているんだ」とクレームが生じることがあります。そうすると、法人の担当職員は強いストレスを受けることになる。「住民のために」と思って働いているのに歓迎されないので、不満や疲労がかさみ、離職に至るケースさえ出てきます。
しかし、住民自身が常に主体的に考え、決定をしていれば、問題を“誰かのせい”にしたりせず、自分たちで解決しようとします。法人の職員は、それを脇で応援する立場なので、批判の矢面に立つことがありません。地域の人と信頼関係を築きながら、目的に向かって一緒に仕事ができるので、職員も居心地の良い空間で充実感を味わいながら仕事に携われます。

「地域の力」のおかげで人材難とも無縁

──職員も施設の中にこもって仕事をするより、地域全体が“職場”のような感覚で、いろいろな人と関わりながら仕事ができると楽しいでしょうね。

その通りです。職員の活き活きと働く姿があちこちで紹介されるので、それを見た多くの若い人たちが職を求めてやって来てくれます。同業者には申し訳ないのですが、当法人は人材難とは無縁です。これも、すべて“地域の力”のおかげだと思っています。

──社会福祉法人の地域貢献というと、CSR的な位置づけで取り組まれるのが一般的ですが、佛子園さんの場合は、それが本業というところが決定的に違います。本業にすることで、職員が地域貢献を楽しむことができるのかもしれません。

地域の人とつながることを真ん中に据えて事業を展開したほうが、絶対にうまくいきます。施設の中にこもっていたら得られない、地域の有用な情報も入ってきますし、地域に眠っている潜在能力が事業に活かされるケースも少なくありません。

──地域の人と関係性をつくるうえでのご苦労もあるのではないでしょうか。

もちろん、すべての人が最初からウェルカムというわけではありません。ただ、当初は好意的ではなかった人も、時間をかけてコミュニケーションを続けるなかで、少しずつ理解を示してくれるようになります。無理解という点でいえば、住民よりもむしろ職員側の抵抗のほうが大きかったですね。
障害者と子どもを一緒にみるとなったときに、保育士から「障害者が子どもにケガをさせたらどうするんだ」と反発の声が上がりました。しかし、そう言っていた職員も、今では「保育士だけが子どもを育てるのではない。高齢者や障害者と一緒に過ごすことで、子どもはもっと大きく成長できる」と考えるようになっています。
地域の人たちが「ごちゃまぜ」に過ごす空間で、子どもも高齢者も障害者も職員も、みんながお互いを支え合い、それぞれの役割を果たしていくことが理想ではないでしょうか。そうしたまちで、幸せな思い出をつくりながら育った子どもたちは、大人になってから往時を懐かしんで再び地域に戻ってきてくれるでしょう。その若者が、まちづくりの新たな担い手になってくれればありがたいと思います。

今回のポイント

1)制度の垣根なく、多様な人が「ごちゃまぜ」で交流することで、人も地域も元気になれる。
2)まちづくりの主役はあくまで住民。支援者は住民と信頼関係を築きながら、「黒子」に徹することがうまくいくコツ。
3)これからの社会福祉法人は地域とつながることを事業の中核に置くべき。職員も含めたさまざまな人が互いに支え合い、それぞれ役割を果たすことが理想。
紀伊信之

紀伊信之
株式会社日本総合研究所
リサーチ・コンサルティング部門高齢社会イノベーショングループ部長
きい・のぶゆき
1999年 京都大学経済学部卒業後、株式会社日本総合研究所入社。B2C分野のマーケティング、新規事業開発等のコンサルティングを経て、2018年4月より現職。介護現場へのテクノロジー活用をはじめとする介護・シニア・ヘルスケア関連の調査・コンサルティングに従事。在職中、神戸大学にてMBA取得