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福祉のかたち

産・官・学が手を組むことで地域の“しあわせ”に貢献する

2021.10 老施協 MONTHLY

未来の“福祉のかたち”を多様な視点から考えていく本連載。今回は、自治体、大学、民間企業が協働で地域の課題解決に取り組んでいる愛知県豊明市の事例を紹介しながら、各主体の社会に果たす役割、得られるメリット、連携への思いについて、それぞれの立場から語っていただきました。

今月のゲスト

松本小牧/愛知県豊明市市民生活部市民協働課課長

松本小牧/愛知県豊明市市民生活部市民協働課課長

都築晃/藤田医科大学地域包括ケア中核センター

都築晃/藤田医科大学地域包括ケア中核センター

加藤博巳/株式会社アイシンビジネスプロモーション部部長

加藤博巳/株式会社アイシンビジネスプロモーション部部長

松本小牧/愛知県豊明市市民生活部市民協働課課長
まつもと・こまき
2001年、愛知県豊明市役所入職。15年より地域包括ケアシステムを担当。民間企業や大学など、多様な主体の参画による新しい価値づくりに向け、組織内外への働きかけを管理職として牽引する

都築晃/藤田医科大学地域包括ケア中核センター
つづき・あきら
藤田医科大学保健衛生学部リハビリテーション学科講師。
2013年より、同大学地域包括ケア中核センターのメンバーとして、豊明市の多職種合同による地域ケア会議の立ち上げに携わる。医学博士、理学療法士、介護支援専門員

加藤博巳/株式会社アイシンビジネスプロモーション部部長
かとう・ひろみ
1992年、株式会社アイシン精機入社。海外法人副社長を経て、2018年、イノベーションセンター部長。デマンド型乗合交通「チョイソコ」の企画・開発に携わり、豊明市における導入を皮切りに、全国にも展開中。昨年1月より現職


「自立支援」から「ふつうに暮らせる」へ

──愛知県豊明市では産官学が一体となり、社会課題の解決に取り組んでいると聞いています。始めたきっかけは何だったのですか。

松本 豊明市は名古屋市に隣接する人口約6万9000人、高齢化率25%を超えるベッドタウンです。市内には藤田医科大学病院があるほか、特養・老健などの介護保険施設なども充実していますが、在宅を支えるサービスが不足していました。そこで、2014年から、地元医師会と連携関係があり、介護事業も展開している藤田医科大学とともに、地域包括ケアシステムの構築に着手しました。

──「官」と「学」の連携は早い時期からあったのですね。

松本 はい。その後、要支援認定者の通所・訪問介護が総合事業へと転換されたのを機に、多職種による合同ケアカンファレンスを開催しながら、軽度要介護認定者や要支援認定者の「自立支援」に取り組み始めました。

都築 地域ケア会議を進めていくと、職種によって「自立支援」に対するイメージが異なっていることが明らかになりました。医療職はIADLが介助なくできるようになることを「自立」と考え、福祉職は自己決定に基づいて主体的に生活を営むことを「自立」と考えます。こうした認識のずれを抱えたまま、国が求める「自立支援」に向かうことに難しさを感じていました。

松本 事例を積み重ねていくなかで気づいたのは、その人がかつて当たり前にできていた活動をふつうに行える日常に戻すことが、本当の“しあわせ”ではないかということでした。

都築 「自立をめざして機能訓練や体操をしろ」と周りが叫んでも、本人の心が動かなければ自立は進みません。要支援・要介護になる前に、毎日パチンコ屋に通っていた人はパチンコ屋に行けるようになりたい、温泉通いをしていた人は温泉に行けるようになりたい。そこを目標にしないと、本人の行動変容につながらないと気づいたのです。

松本 そこで、「ふつうに暮らせるしあわせ」をキャッチフレーズに掲げ、一人ひとりの“しあわせ”を取り戻す支援に取り組みました。ただし、一人ひとりの日常を取り戻すためには、医療・介護サービスだけではとても足りない。民間企業との連携が不可欠でした。

図表 「ふつうに暮らせるしあわせ」に向けた「産・官・学」の連携(愛知県豊明市)

魅力ある外出先と便利な移動手段が必要

──一人ひとりの日常の過ごし方は多様ですから、いろいろな民間サービスとの連携が必要になります。

都築 外出が困難になった高齢者は行きたい場所があるのに、移動手段がないために諦めざるを得ない。その人たちの日常を取り戻すためには、その人たちにとって魅力ある外出先となる温泉施設や店舗に働きかけて協力を求めるとともに、目的地まで皆さんを運ぶ交通手段を見つけなければなりませんでした。

──その課題を解決するために、アイシンさんと連携することになったのですね。

加藤 その頃、当社では得意とする自動車ナビゲーションのノウハウを活用し、自治体と協働でオンデマンド型交通サービスの開発を進めようと考えていたのですが、周辺の自治体に話を持ちかけたときに一番前向きだったのが豊明市でした。
当社が企画した「チョイソコ」は、会員登録をした利用者から乗車依頼を受け付け、最適な乗り合わせと経路を計算し、利用者を目的地まで乗合送迎する配車システムです。しかし、運賃200円のサービスですから、高齢者の移動手段に限定していたら採算がとれません。そこで、利用者の行き先となる施設や病院、店舗などに「エリアスポンサー」になってもらい、そのスポンサー収入を運営費に充てる仕組みにしたのです。

松本 温泉施設に出かける高齢者は帰りにドラッグストアやスーパーマーケットに立ち寄って買い物をします。そう考えれば、たとえば温泉施設が1社で送迎バスを出すのではなく、共同運行にすべきではないかという発想を私たちは持っていました。その意味で、「チョイソコ」は理にかなったサービスだと感じました。

加藤 今、「チョイソコ」では高齢者の送迎だけでなく、塾通いの子どもの送迎や弁当の配送、農作物の運搬なども行っていますし、オペレーターが電話による高齢者の見守りを行うサービスも手がけています。また、車両に付けたカメラやセンサーを使い、車を走らせながら道路の破損状況などの路面情報や大気汚染データを集め、市に提供するサービスも行っています。
このように、自治体や異業種企業と連携し、サービスの幅を広げることで、「チョイソコ」を一事業として確立させることが可能になりました。

──単なる社会貢献ではないということですね。

加藤 社会貢献だけでは継続が困難になる可能性があります。サービスの質を向上させるためにも、事業として継続させることが肝心です。

「三方よし」の精神で社会課題解決に取り組む

──地域の課題解決はビジネスとして成立しない、企業収益と地域貢献は両立しないと考える人も多いと思います。

松本 一昔前までは非営利公益的活動を担うのはボランティア団体やNPO、福祉を担うのは社会福祉法人、利益を追求するのは一般企業といった棲み分けがありました。しかし、今はSDGsの流れもあり、どの主体も社会課題解決に関わろうとしています。
各主体が課題解決に向けて連携するときには、“売り手よし、買い手よし、世間よし”の「三方よし」の関係性が大切だと思います。私はどの主体とパートナーを組むときも、相手にメリットがあるかということを第一に考えます。

都築 大学としても、自治体や民間企業と連携する取り組みはチャレンジです。「三方よし」の考えでいくと、当大学は医療・介護事業も行っており、住民に対して医療・介護サービスや関連する知識・情報を提供することで、地域の人々の健康や暮らしを支える役割を果たしています。
一方で、教育機関として、将来、医療職・介護職に就くことをめざしている学生に、魅力ある教育の場を提供するという使命もあります。その点では、学生が豊明市の多職種連携システムのもと、地域の高齢者を支える現場に関われることは非常に貴重な経験だと考えています。地域に出て、患者や要介護者をひとりの生活者として見る視点を持つことで、学生自身が視野を広げ、スキルを高めて有能な専門職に成長してくれれば、それは当大学にとっても大きなメリットになります。

加藤 当社は自動車部品メーカーで、BtoCの経験がほとんどなかったのですが、これからの時代は、一般消費者や一般住民に向けて商品やサービスを提供していく姿勢が求められると思っています。「三方よし」の精神で、企業活動を通して、地域の皆さんの“しあわせ”に貢献することが、社会を支える企業としての役割だと考えています。

松本 産官学が手を組み、社会課題解決のために知恵を絞り、汗をかくことで、これまでにない新しい価値を創造することができ、その価値を全国に広められたら素晴らしいと思います。そうなることで、新しい価値の創造に関わった産官学の各主体もまた、自らの価値を高めることができるのではないでしょうか。

今回のポイント

1)「ふつうに暮らせるしあわせ」は医療・介護サービスだけでは取り戻せない。さまざまなサービスを含めた「地域のあり方」まで視野を広げるべき。
2)SDGsの流れを受けて、民間企業、大学などさまざまな主体が「社会課題の解決」に関わろうとしている。社会福祉法人も地域の多様な主体との連携を。
3)課題解決に向けては、参画する主体、それぞれのメリットを考え、「三方よし」となるスキームを「デザイン」することがキモ。
紀伊信之

紀伊信之
株式会社日本総合研究所
リサーチ・コンサルティング部門高齢社会イノベーショングループ部長
きい・のぶゆき
1999年 京都大学経済学部卒業後、株式会社日本総合研究所入社。B2C分野のマーケティング、新規事業開発等のコンサルティングを経て、2018年4月より現職。介護現場へのテクノロジー活用をはじめとする介護・シニア・ヘルスケア関連の調査・コンサルティングに従事。在職中、神戸大学にてMBA取得