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福祉のかたち

最新のテクノロジーを活かし未来を支える介護を創造する

2021.9 老施協 MONTHLY

これからの〝福祉〟をさまざまな視点から考える本連載。今回は、SOMPOホールディングスで介護・福祉現場での効果的なテクノロジー導入に取り組む「Future Care Lab in Japan」所長の片岡眞一郎氏に、人間とテクノロジーの共生による新しい介護のあり方についてお聞きしました。

今月のゲスト

片岡眞一郎/SOMPOホールディングス株式会社 Future Care Lab in Japan 所長

片岡眞一郎/SOMPOホールディングス株式会社 Future Care Lab in Japan 所長
かたおか・しんいちろう
28歳で介護の世界に入り、介護付ホームで介護職を経験後、採用・教育の仕事に携わり、介護職員の人材の確保が喫緊の課題と感じる。2019年2月に介護職の業務負荷軽減と介護現場の生産性向上を主な目的とした、介護・福祉に関わるテクノロジーの開発・研究センター「Future Care Lab in Japan」の所長に就任


現場への導入に向けて実証実験に取り組む

──2019年2月に、介護・福祉に関わる実証を行う研究所「Future Care Lab in Japan」(以下、ラボ)をオープンされました。開設の経緯を教えていただけますか。

設立の最大の目的は、介護現場で喫緊の課題となっている介護人材の需給ギャップの解消にあります。当社は傘下に介護事業を展開しているSOMPOケアを持っていますが、そこでは施設介護・在宅介護ともに人材不足に悩まされています。介護現場にテクノロジーを導入することで、10人で担っていた業務を9人、8人に減らすことができれば人材の需給ギャップ解消に寄与できるのではないかという思いから、取り組みをスタートさせました。
ラボのコンセプトとしては、①高齢者の自立支援、QOLの維持・向上、②介護職員の働きやすい環境づくり、③介護サービスの生産性向上を掲げています。

──実証評価は具体的にどのような形で行うのでしょうか。

ステップが3つあり、基本企画→開発実証→現場実証と進めていきます。基本企画ではシーズやニーズのリサーチを行い、コンセプトや要件・仕様を決定したのち、開発実証ではラボのなかでさまざまな実証を実施します。その結果、実用性が高いと評価できれば、実際の介護現場に導入して実証を行います。現場実証では、SOMPOケア内の介護現場に協力してもらっています。
昨年3月までに365製品のシーズをリサーチし、そのうち開発実証まで進められたものが110、現場実証に至ったものは34まで絞られました。この34からさらに絞り込んだ10余りが、実際にSOMPOケアの現場で展開できています。

図表 Future Care Lab in Japanの役割

導入判断の要素は事業者ごとに異なる

──シーズをリサーチされた365点の多くは上市されていると聞きましたが、絞り込みにあたって介護事業者はどのような点に留意すればいいでしょうか。

ラボでは、安全性、利用者メリット、職員メリット、費用対効果の4つの観点から評価しています。
ただ、4つの基準を全部満たしていなくてはならないということではありません。事業者の理念や介護方針、体制や環境によって重視する観点は異なるはずです。コストがかかっても自立支援に力を入れたいという事業者もいれば、職員の働く環境を整えたいという事業者もいる。職員メリットが少なくても、利用者メリットが多く、生産性も向上するなら導入しようという考え方もあるでしょう。4つの観点のバランスをトータルで評価することが重要だと思います。

──ちなみに、SOMPOケアの介護現場で展開されている10余りの製品にはどのようなものがあるのですか。

代表的なものでは、睡眠センサーやシャワー入浴装置などがあります。
睡眠センサーは、ベッドに寝ている利用者の呼吸や心拍を測定し、異常の有無を一括管理できる仕組みで、夜勤職員の訪室巡回の負担を軽減させることができます。職員の訪室によって睡眠が妨げられることがなくなるため、利用者にとってもメリットがあります。
シャワー入浴装置は、利用者が座ったまま入浴できるドーム構造の中間浴です。外から職員が操作することでお湯やボディソープが出てきて、洗身もできるというものです。特殊浴が必要なケースでは職員2人がかりで実施するため業務負荷も大きいのですが、このシャワーは職員1人で対応でき、利用者1人あたりの入浴時間も短縮されます。ミスト浴の心地良さは、利用者にも好評です。

──重点を置いている分野はありますか。

SOMPOケアが優先している介護施設の重点分野は、食事・入浴・排泄の3つです。生産性を上げるという考え方がベースにあるので、全業務量の7割を占めるこの3分野は避けて通れません。
ただし、食事にテクノロジーを導入するというときに、単に食事介助をロボットにやらせればいいとは思いません。直接介助はやはり人がやったほうがいいので、周辺業務や間接業務をテクノロジーで補っていくことが望ましい。たとえば、食後に個々のお皿をチェックして利用者の摂食量を記録する業務がありますが、こうした業務は画像技術を使えばテクノロジーに置き換えられるのではないかと考えています。

──人間の得意分野とテクノロジーの得意分野をうまく組み合わせるということですね。まさに人間とテクノロジーの共生だと思います。

片岡眞一郎/SOMPOホールディングス株式会社 Future Care Lab in Japan 所長

メリットを実感しやすい製品から導入すべき

──多くの介護事業者がテクノロジーを導入したいと思いつつ、どこから手をつけたらいいかわからない、導入したけれど運用がうまくいかないといった悩みを抱えています。

製品選びの観点でいえば、対象者の要件や仕様の確認が重要です。たとえば、先ほどのシャワー入浴装置は、要介護度の低い利用者が多い施設ではメリットがあまり期待できません。浴室が狭いと装置が入らないという問題も生じます。
また、導入後はオペレーションも変えていく必要があります。導入するからには、それを使いこなそうという意識を持った人を中核に据えて、主体的に取り組むことが求められます。可能であれば、同じ製品を導入・運用している他事業所を見学させてもらうと参考になると思います。

──導入時の留意点は何でしょうか。

テクノロジーのメリットを実感しやすい製品を最初に入れることをおすすめします。1つの製品を導入して、多くの職員が「とても楽になった」といった体験があると、テクノロジー導入に対する現場の抵抗感も薄れます。
また、導入の視点ということでいえば、管理者は安全性や費用対効果に、職員は自分たちの使いやすさや利用者が喜ぶかどうかに力点を置く傾向があります。両者の意思疎通がうまくいかないと対立する可能性がありますから、それぞれの視点を尊重することも大切ですね。
テクノロジーはあくまで“手段”であり、それを活かせるかどうかは目的次第であるということを忘れないでほしいと思います。明確な目的やビジョンを踏まえたうえでの導入であれば、テクノロジーは業務改善や品質向上のための強力なツールになると約束できます。

今回のポイント

1)人とテクノロジーの共生=役割分担が重要。三大介助も、周辺・間接業務をテクノロジーで補う余地は大きい。
2)具体的な製品・サービス導入においては、自施設の目的に沿って導入可否を判断する基準を持っておくべき。
3)まずは現場がメリットを実感しやすいテクノロジーから導入することで、現場の抵抗感は払拭できる。
4)テクノロジーはあくまで手段。課題の整理と導入目的の明確化、使いこなす工夫が重要。
紀伊信之

紀伊信之
株式会社日本総合研究所
リサーチ・コンサルティング部門高齢社会イノベーショングループ部長
きい・のぶゆき
1999年 京都大学経済学部卒業後、株式会社日本総合研究所入社。B2C分野のマーケティング、新規事業開発等のコンサルティングを経て、2018年4月より現職。介護現場へのテクノロジー活用をはじめとする介護・シニア・ヘルスケア関連の調査・コンサルティングに従事。在職中、神戸大学にてMBA取得