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福祉のかたち

日本人は「幸福」をどう感じている?

2020.6 老施協 MONTHLY

少子高齢化、住民の福祉ニーズの多様化を背景に、我が国の“福祉のかたち”は「地域共生社会の実現」をめざして進んでいきます。本連載では、この地域共生社会づくりに、高齢者福祉事業者がどうかかわっていけばいいか、関係者への対談を軸に探っていきます。第1回は、その前提として、日本の「幸福」を整理してみました。

価値観の問い直しが強いられる時代

新型コロナウイルスの感染拡大は、私たちの暮らしや仕事にさまざまな影響を与えています。外出や人との接触が制限されるなか、改めて自分にとって本当に必要なものは何かを考えるきっかけとなったという人も多いと思います。総じて、さまざまな面での価値観が問い直されるタイミングだと言えるでしょう。この連載では、このような時代のなかで、これからの福祉のあるべき姿を考えていきたいと思います。
さて、これからの「福祉」を考えるにあたって、まずその言葉の意味を確認しておきましょう。
広辞苑では「福祉」について、「幸福。公的扶助やサービスによる生活の安定、充足」、大辞林では「幸福。特に、社会の構成員に等しくもたらされるべき幸福」とされています。「福祉」を考えるにあたり、まず「幸福」について掘り下げて考えてみる必要がありそうです。連載初回は「幸福」について、私たちの置かれている環境や現状について、データに基づき少し整理してみたいと思います。

「中の上」くらいに位置する日本の幸福度

毎年国連の関連団体が発表している「World Happiness Report 2020」では日本の幸福度ランキングは153国中62位でした※1。フィンランドやデンマークなど、手厚い社会保障で知られる北欧諸国が上位に名を連ねています(図表1)。残念ながら、日本は過去3年では、2017年51位、18年54位、19年58位と、徐々に順位が下がる結果となっています。
また、アメリカの世論調査会社ギャラップ・インターナショナル等が調査した別の調査(2018年)では、1位フィジー、2位コロンビア、3位フィリピンと上位の顔ぶれはかなり異なりますが、日本は55か国中18位となっています※2。日本はいずれにしても、「中の上」くらいに位置するようです。
次に、日本国内に関するデータも見てみましょう。内閣府の「国民生活に関する世論調査」では、「現在の生活に対する満足度」は、令和元年度調査では「満足している」と「まあ満足している」を足して約74%が「満足」と答えており、こちらは過去最高の水準となっています。
このデータだけを見ると、我が国は、世界最高水準ではないものの、そこそこ幸せを感じている人が多く、問題がないように思えます。しかし、実感としてそれほど「幸福な社会」に生きているようには思えない方が多いのではないでしょうか。そこで、気になるデータをいくつかご紹介しましょう。

※1:この調査では、「想像できる最高の生活を10点、最低の生活を0点としたとき、あなたの現在の生活を点数化すると何点か」という主観的ウェルビーイングの平均得点によってランキングが行われている。
※2:自分が幸福か不幸かを「とても幸せ、 幸せ、幸せでも不幸でもない、不幸、とても不幸」の5段階で聞き、「幸福を感じている人の比率」—「不幸を感じている人の比率」によって幸福度が算出されている。

「格差の拡大」や「孤独」「社会的孤立」

経済面で気になるのは、格差の拡大です。多少の増減はあるものの、相対的貧困率※3は一貫して右肩上がりです(図表2)。「総中流社会」といわれたのはもはや過去のことで、すでに日本の相対的貧困率(15.7%)は日米欧主要7か国(G7)のなかでもアメリカに次いで高い水準となっています。こうした経済格差は、食生活などを通じて生活習慣病の発症リスクにも影響し、「健康格差」へとつながっていくことにも注意が必要でしょう。
また、精神的な面で気になるのは「孤立」や「孤独」です。人や社会とのつながりが幸福を左右することは、データでも裏づけられており、内閣府の「満足度・生活の質に関する調査」では、「友人との交流頻度」や「頼れる人の数」が総合的な生活の満足度に影響することが明らかになっています。
一方で、高齢者の独居世帯が600万世帯を超えて増え続けるなか、「社会的孤立」が問題となっています。国立社会保障・人口問題研究所の「生活と支え合いに関する調査」では、独居の男性高齢者では、人との会話頻度は「2〜3日に1回」以下が半数にのぼり、「日頃のちょっとした助け」で「頼れる人がいる」とする人は54.5%に留まっています。近年では、社会的孤立はフレイルや認知機能低下のリスクとなることもわかってきており、孤立の問題は、健康や介護予防の問題とも言えます。
なお、心理的な「孤独」は、高齢者だけの問題ではありません。子供の「孤独」も無視できない問題の一つです。2007年のユニセフの調査では、日本の子供(15歳)の29.8%が「孤独を感じる」と答えており、対象のOECD加盟国25か国中、圧倒的に多い比率となっています。

※3:世帯の所得がその国の等価可処分所得の中央値の半分に満たない世帯の割合。

人口減少への対応と地域全体の活性化が課題

上記のような問題に加え、「これから」を考える際に、日本全体で進む「人口減少」という大きな変化を無視することはできません。戦後の急速な人口増加から、すでに人口減少の局面に入っています。国土交通省のデータでは、日本の人口は2004年の1億2,784万人(高齢化率19.6%)をピークに減り続け、2030年には1億1,522万人(同31.8%)、2050年には9,515万人(同39.6%)、2100年には中位推計で4,771万人(同40.6%)に減少するとされています。
人口が減り続けるということは、地域によっては公共交通の縮小や民間商業の撤退等を通じて、私たちの暮らしに大きく影響します。医療機関の撤退や買い物難民問題など、すでに問題が顕在化している地域も出てきています。産業や公的なインフラが縮小することは、前述の「社会的孤立」や格差の拡大を助長する恐れもあります。人口減少が進むなかでは、都市部と地方など、地域間での差もますます大きくなっていきます。
人口減少に対して、経済の活性化などを含めた「地域全体の活性化」にどのように貢献できるかという視点が、これからの「地域の福祉」には求められると言えるでしょう。

忘れてはいけない“働き手の幸福”という視点

最後に、ステークホルダーとして働き手の幸福を忘れてはいけません。全国老施協の調査結果では、「職場の満足度」は管理職でも44%、一般職では3割強に留まる結果となっています※4。海外との比較においては、「利用者から喜ばれていると思うか」という問いに対する介護職員の意識について、北欧諸国と大きな差があるというデータもあります(図表3)。
労働人口が減少していくなか、処遇改善にとどまらず、地域の住民の「幸福」を支える「働き手自身の幸福」はこれからますます重要になるでしょう。
以上を踏まえると、「幸福」にかかわる環境は大きく変化しつつあり、健康や経済、コミュニティのあり方など、それぞれの要素が複雑に絡み合ったなかで、地域住民や働き手の幸福を追求していく必要があると言えます。そうしたなかでは、従来の制度の枠組みにとらわれず、今の時代に即した「新しい福祉」のあり方を考えていかなくてはならないのではないでしょうか。

※4:全国老人福祉施設協議会 令和元年度「会員の意識調査」。

今回のポイント

1)経済的な格差は広がる傾向にあり、それが健康格差など新たな問題へと派生している。
2)世帯構成や地域コミュニティの変化により、孤立や孤独といった精神的な部分での充足が大きな課題となっている。またこれらは健康面への問題ともつながっている。
3)人口減少は地域社会のありようを大きく変える。地域住民の「幸福」を考えるには経済や産業を含めて地域を考える幅広い視野が必要。
4)労働人口が減少するなか、働き手にとっての「幸福」も重要。「やりがい」「達成感」にも注目すべき。

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次回以降、この連載では、「新しい福祉のかたち」について、各分野での有識者や実務家の方々との対話を通じてヒントを探っていきたいと思います。

紀伊信之

紀伊信之
株式会社日本総合研究所
リサーチ・コンサルティング部門高齢社会イノベーショングループ部長
きい・のぶゆき
1999年 京都大学経済学部卒業後、株式会社日本総合研究所入社。B2C分野のマーケティング、新規事業開発等のコンサルティングを経て、2018年4月より現職。介護現場へのテクノロジー活用をはじめとする介護・シニア・ヘルスケア関連の調査・コンサルティングに従事。在職中、神戸大学にてMBA取得