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特集(制度関連)

そのだ修光×平石朗 働きやすい環境づくりへの提言! 介護業界の未来へ向けて

2022.06 老施協 MONTHLY

第3弾[未来編] 働きやすく、魅力ある介護現場の構築を目指した実証実験が進行中

利用者の人生に寄り添い、家族同様の愛情を注ぐ介護の仕事は、やりがいがあり魅力のある職場である、というのが、そのだ議員、平石会長が一致する確固たる信念だ。問題はその魅力が介護従事者以外の人々にうまく伝わっていないこと。報酬アップはもちろんそのための大事なステップだが、ロボット・ICTなどのテクノロジーを駆使した最先端の事業にすることもこれからの世代に向けた大きな魅力づくりの一つであり、そのための実証実験が今期からスタートしている。対談最終回は、このプロジェクトを中心に、未来の介護業界への展望を語り合ってもらった。


平石 朗

平石 朗

Profile●ひらいし・あきら=’55年、和歌山県生まれ。岡山大学法学部哲学科卒。特養老人ホーム星の里施設長、社会福祉法人尾道さつき会理事長、’11年に広島県老人福祉施設連盟会長に就任(3期6年)し、現在は顧問・代議員として活動。’19年より全国老人福祉施設協議会会長

そのだ修光

そのだ修光

Profile●そのだ・しゅうこう=’57年、鹿児島県鹿児島市生まれ。鹿児島県議を経て’96年鹿児島2区から自民党公認で衆議院選挙に当選。自民党社会部会で介護保険制度の立法化に尽力。’06年特養老人ホーム旭ヶ丘園施設長に就任。’16年参議院比例区から自民党公認で当選


介護現場の環境改善はまだまだ始まったばかり

 前回もご紹介した通り、そのだ議員と平石会長はコロナ禍以降2年ぶりに全国の施設を実際に訪問して意見交換を行っている。またその間、老施協をはじめとする介護関連8団体の代表が集まった会合も開き、各団体代表の立場から、そして現場の職員の立場から、幅広い意見を集めて今後の介護業界の在り方について模索している。対談の最終回では、未来を見据えた視点で、お二人に率直な意見を出し合ってもらった。

平石「先日、介護関連8団体の代表が一堂に会して、そのだ議員と意見交換をするという場が参議院会館でありました。あのような集まりが実現できたのも、この6年間、そのだ議員の活動が介護現場に確実にいい影響を及ぼしていることを各団体の皆さんが認識していればこそだと思っております」

そのだ「衆議院は小選挙区制で、1選挙区1名当選。参議院も32の選挙区でそれぞれ1名の当選ですから、専門分野に特化した議員が生まれにくい傾向にあります。私は全国比例区から介護という職域で国会に上げていただき、介護現場環境の改善に専念して議員活動を行ってきました。結果、今では野党議員や、時に厚生労働省の方からも『介護事業の件でしたら、そのだ議員に聞いてみたらいかがですか?』とまで言ってもらえるようになりました。これも平石会長はじめ全国老人福祉施設協議会の皆さん、さらに各介護団体の皆さんと気持ちを一つにして歩んできたからこそ、と思っています」

平石「各団体代表の皆さんからは、今後もそのだ議員の活動に期待する言葉が多く出て、国政の場で介護業界の課題や要望をアピールすることがいかに大事なことかが、浸透してきていることも感じました。一方で、介護現場においての人手不足、といいますか、なり手不足に関しては、どの団体でも共通の課題でしたね」

そのだ「介護職に就きたい人を増やすには、今後も引き続き報酬アップ改定を続けて、介護事業者を魅力ある職種にしていかなければならないですね。’25年には介護職が32万人不足すると厚生労働省自体が試算しているわけですから、であれば報酬、それも基本報酬を上げないと、各職種でバランスよく人材を採用することも難しくなります。また、職種による待遇の格差、とりわけ介護支援専門員(ケアマネジャー)さんなど、国家資格でなくとも、極めて専門性の高い職種の方々の待遇をよくしていかなければならないことにも意を強くしています。特にケアマネさんは要介護者さんが最初に出会う大事な介護事業者にもかかわらず、今回、居宅のケアマネさんなどは報酬アップの対象にもなっていない。こうした状態の改善は大きなテーマだと考えています」

平石「介護事業は団体が多いので、なかなか業界全体の意思統一がしにくいという問題がありました。しかし、そのだ議員と活動を共にするようになり、そのだ議員が業界全体を代表して国政に要望を届けられるようになったこの体制を、今後もしっかりと続けていきたいと改めて実感しました」

そのだ「今回、参議院議員として6年間の仕事について、いろいろと皆さんからは高い評価もいただいてはおりますが、社会保障全体の中で言えば、われわれ介護事業の改善は、始まったばかりです。正直、まだまだこれからだ、という思いでいるところです」

平石「私たちは今後も現場を改善し、結果を出し続けねばならない。そうした成果も国政の場に届けていただければと思っております」

ロボット・ ICTは単なる効率化だけが目的ではない

平石「現状いろいろ課題はありつつも、ICTシステムの導入、活用はさらに進めるべきであることが先日の会では確認できました。コロナ禍でオンラインミーティングが進んだのも、ひとつICTの活用、という意味では、これは介護の現場に限らないでしょうけど、業務の効率化には役立ちました」

そのだ「われわれの仕事は全国の施設の皆さんとの定期的なコミュニケーションが大事ですから、その点でもICTの活用はいいツールになりましたね」

平石「協会の重点事業である介護現場の革新のためにも、現在導入が進んでいる『LIFE』(科学的介護情報システム)を土台としつつ、今後もロボット、ICTは積極的に取り入れていきたいと考えています。現在、全国から公募で選抜した8つの施設において、ロボット・ICT導入の実証モデル事業を行っています。われわれの調査では、会員全体の7、8割の施設がDXの入り口にも立っていない状況。今回の実証実験の成果や課題、ノウハウを大きい施設から小さい施設まで共有し、老施協が率先してDX化をサポートすることで、業務の効率化を推し進めたいと思っています。一方、そのだ議員も先ほどおっしゃった、介護の仕事を魅力あるものとしてこれからの若い世代にもアピールしていきたい、というのもこの取り組みの目的の一つです。というより、私の中ではこちらの方がむしろ大きいんです。私自身、大学卒業からずっと介護の仕事に従事して、人の人生に寄り添うことができる、こんなに魅力的な仕事はない、と思ってやってきました。最先端の技術を導入することで、介護の仕事の楽しさ、面白さを伝えたい。同時に次の世代に残す仕事をラクにもしてあげたい。この考え方は、株主利益を第一に考えざるを得ない営利企業ではできないものだと思っています」

そのだ「まさにその通りですね。特養などは“ついのすみか”になる場所でもありますし、利用者さんの、ひいては全国民の人生を守っていく、という場でもあります。だからこそ制度ビジネスという形を取っている。制度ビジネスだからやたらと予算はかけられない、という考え方自体がそもそも逆なんです。それを若い人たちにも伝えていければいいですね」

5月号で紹介した介護8団体の代表による意見交換会。会では、そのだ修光参議院議員を中心に団体間での協力が必要という認識で一致した

人の人生に寄り添える喜びを若い人に伝えていきたい

平石「私は介護福祉士の専門学校も運営しているんですが、若い人はやっぱりICTやロボットへの理解が早いし使いこなすのも上手です。一方、介護は人を相手にする仕事ですから、利用者のことをよく知っているベテランの職員の活躍がどうしても注目されがちです。若い人を中心に、ICTを活用する場面を多く作って、ベテランと若手の活躍のバランスを取りながら、多面的に介護業務の魅力を伝えていければと思うんです」

そのだ「最近では3世代同居、というのも少なくなってきているので、自身のおじいさん、おばあさんの臨終に立ち会う、ということもなかなかない中、若手の職員さんにとっては、利用者さんが自身のおじいさん、おばあさんであるような感覚で接しているのが見て取れます。きっと彼らにとってはもう家族なんですね。何年も施設で一緒にいれば、その人の嫌な面も見ることもあるし、一緒に心から楽しめる瞬間もある。まさに家族そのものです。そして時にその人の人生の最後を作っていくこともあるのが介護事業。涙を流しながら見送っていく職員さんたちの姿を見ると、この仕事を通じて人間的にも成長していることを頼もしく思いますし、そうした人たちに報いるためにも、まだまだやらなければいけないことはたくさんある、と感じています」

平石「われわれ老施協も引き続き国政の場でそのだ議員に発言し、活動していただきながら、魅力ある介護事業の完成に向けて努力していきたいと思っておりますので、これからもどうかよろしくお願いいたします」

そのだ「ありがとうございます。こちらこそ、引き続きよろしくお願いいたします」

働きやすい未来に向けて! 「全国老施協版介護ICT実証モデル」を展開中

全国老施協は令和3年度から4年度にかけて「全国老施協版介護ICT実証モデル」事業を実施中だ。介護サービスの質の向上・効率化を進めていく上で必須となる介護現場でのICT・テクノロジーの活用を、各ブロック8施設の特別養護老人ホームに導入。導入前後の介護業務のタイムスタディーを通じた効果測定により、現場への効果的な導入方法を明らかにするのが狙いだ。

実証事業で目指していること (介護提供者・運営者の観点

実証施設に新規導入、入れ替え、 追加された介護ICT機器

実証モデルのスケジュール


撮影=桃井一至/取材・文=重信裕之