特集

チームのチカラ

【INTERVIEW】川瀬賢太郎/指揮者

2021.5 老施協 MONTHLY

「チーム力」が求められる介護の現場。今回は、指揮者として多くのコンサートやオペラの舞台で活躍する川瀬賢太郎さんに、チームをまとめる際の心構えや、自身の考えるリーダーシップについて聞きました。


常にオープンマインドで相手の意見を受け入れ
全体の質を上げていく

クオリティを高める

「空気を読む」ことは大事だが“読みすぎ”てもいけない

クラシック音楽の指揮者は、曲の時代背景や作曲家の意図、楽譜の表記などを読み解いて方向性を決め、それをオーケストラに伝えてまとめ上げていく役割を担います。その際に私が大事にしているのは「空気を読む」こと。音楽は、人がつくり人が演奏し人が聴くものだからこそ、それを奏でる演奏家の機嫌や気分などが作品の質に大きく関わります。指揮者は演奏家が醸し出す空気感をよく察知するべきで、その空気が重いと思ったときは、リハーサルを早めに切り上げることもします。
難しいのは、空気を読みすぎてもいけないということです。過度な遠慮が出てしまうため、時には「空気を読んだうえで、読めないフリをする」こともあります。内心ですごく気を使いながら目標の地点まであえてリハーサルを続けることもあり、そうした過程を積み重ねて信頼関係をつくっていくことを大切にしています。
指揮を行う際には、できるだけ「オープンマインド」でいることに気をつけています。自分の考えを伝えるには、その前に相手(演奏家)の意見を受け入れることが大切だと思うからです。演奏家が「このように演奏したい」と音で伝えてきた場合、自分の意図とは違っても頭ごなしに否定はしません。いったん思うように演奏してもらい、こちらが意図するところとの着地点を音楽のなかで示していくようにしています。演奏家をリスペクトしているからこそ、そうした行為が重要で、音楽の質を高めるために欠かせないことだと思っています。

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「リーダーだから」という過度の気概や振る舞いは不要

プロ集団であるオーケストラには、時に個性の強いメンバーもいます。大学を卒業してすぐにプロを指揮したときには、こちらを試すような態度を感じたこともありました。それでもたじろがず、勇気を出してこちらから話しかけると、意外にいろいろ教えてくれたりしました。そうした経験から、チームをまとめる際には、先入観をなくし、自然体で臨むことが重要だと考えています。
「リーダーの立場であればあるほど、『自分がリーダーだ』といった気概は不要」だと思います。チームが一丸となってゴールに向かう場合、それぞれのメンバーは自分の領分の仕事を全力でやることが求められます。そうした土台をつくれれば、「リーダーだから」という余計な自己顕示は必要ないでしょう。
私も指揮をするとき、「このオーケストラのリーダーだ」と思うことは一度もなく、ただ自分らしくいることを心がけています。
介護と音楽の世界に共通点があるとすれば、ともに「人が相手」ということでしょう。そして、テクノロジーの進歩が状況を変えつつあることも似ています。介護の分野ではケアをサポートするための先端機器が普及し始めていると聞きますし、音楽界でもテクノロジーの進歩は目ざましい。そこで思うのは、「テクノロジーをなぜ使うのか、どう使うのかということが一番大切ではないか」ということです。その本質を考えることで、テクノロジーと人間のバランスの取れた関係性が見えてくるのではないでしょうか。

指揮者 川瀬賢太郎

かわせ・けんたろう
1984年、東京都生まれ。
2007年、東京音楽大学音楽学部音楽学科作曲指揮専攻(指揮)を卒業。
06年に東京国際音楽コンクール(指揮)において最高位(1位なしの2位)入賞。
現在、神奈川フィルハーモニー管弦楽団常任指揮者のほか、名古屋フィルハーモニー交響楽団正指揮者、オーケストラ・アンサンブル金沢常任客演指揮者、八王子ユースオーケストラ音楽監督。東京音楽大学作曲指揮専攻(指揮)特任講師