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「組織と機能の強化」を推進「老施協改革」の現在地

2021.5 老施協 MONTHLY

明るみに出た数々の不祥事を受け、2019年6月に就任した平石朗会長は、かつての措置制度の時代に確立した活動や組織運営のあり方の根本的な見直しを打ち出した。これを受け、組織に対する信頼回復や会員との絆の再生を図るべく、管理体制の強化に向けた定款をはじめとする各種規程の大幅な見直し、新型コロナウイルス感染症に対応するための広域感染症災害救援事業の立ち上げ、令和3年度介護報酬改定のプラス改定実現に向けた活動など、さまざまな取り組みが進められた。


全国老施協の組織や機能の強化は、介護現場で働くすべての人々の思いを受け止め、適切な政策提言をタイムリーに行い、豊かな高齢社会を実現していくうえで必要不可欠だ。
「老施協改革」を巡るこれまでの取り組みを振り返り、今後の方向性を展望する。

老施協改革の主要項目

Part1

「老施協改革」の経緯
今、組織改革が求められる理由

全国老施協が組織改革に取り組むきっかけとなった諸問題を改めて振り返るとともに、改革の推移や今後の方向性を整理する。

コンプライアンスとガバナンス上の諸問題

長く我が国の福祉を守ってきた歴史ある全国老施協だが、2013年から18年にかけて、不適正経理とそれに伴う裁判など、組織運営をめぐるさまざまな問題点が明らかとなった。17年には、内閣府の公益認定等委員会から不適正経理に関する指摘を受け、組織としての対応が求められた。介護施設・事業所が人材難や経営難に悩み、全国老施協の会員や研修会参加者が減少傾向にあるなか、そうした一連の組織運営上の問題がさらに拍車をかける事態が懸念された。
こうした事態を受け、全国老施協は、組織のコンプライアンス(法令や明確化された組織のルールを遵守すること)とガバナンス(組織の各構成員が組織の意思を逸脱した行動をとらず、分担された権限と責任のもとで組織的に統制された行動をとること)上の問題の再発を防ぎ、公益法人としての機能を十全に果たすことを目的とする改革に乗り出した。
組織改革と並行して今後、高齢社会がいっそう進むと予想されるなか、公益団体である全国老施協としての今後の事業展開の基本的指針についても検討を行い、18年11月、第75回全国老人福祉施設大会(北九州大会)において、中長期戦略「老施協ビジョン2035」を公表した。これは「最期の一瞬まで、自分らしく生きられる社会の実現」という理念のもと、組織として達成すべき目標とそこに向かう行動指針を示し、展開すべき事業を「10の指針」と「20の行動計画」に整理し、具体的な内容を明確にするものだった。

「融和と再生」を掲げ組織改革を推進

19年6月に全国老施協の会長に就任した平石朗は、組織の危機を訴え、改革の基本方針として「融和と再生」を掲げた。本会内外で発生した軋轢を克服するため、関係者の「融和」を進め、都道府県老施協等・国・関係機関等との連携を強化し、これらを通して組織の「再生」を図ろうというものだ。
この方針のもと全国老施協は、会員のみならず、広く国民に支持される組織の実現に向け、不祥事の再発防止のための管理体制の強化に加え、政策提言、介護・高齢者福祉に係る調査研究、研修、普及啓発、相談支援、広報等の機能についても強化を図った。
指摘を受けた不適正経理については、公益認定等委員会からの報告要求に対応するため、会長直轄の内部統制改革委員会を設置して諸課題に取り組み、17年10月、公益認定等委員会へ報告書を提出した。その後、19年6月3日に提出した報告を最後に再発防止策の進捗状況等に関する定期的な報告は「今後不要」とされたが、全国老施協は定期報告の完了後も手綱を緩めることなく、内部統制改革委員会を中心に諸規程の見直しやガバナンス機能のさらなる強化を図ってきている。

絆の強化に向けて各ブロックで意見を交換

組織運営とともに重視したのが、絆の強化だ。その一環として、19年10月から全国老施協の会長・副会長等が各ブロックに出向き、都道府県指定都市老施協・デイ協の正副会長と直接、意見を交換し、相互理解を深めるための「組織強化に係る懇談会」を開催した。この懇談会で、さらに改革すべき課題を洗い出し、コンプライアンスの確保、会員加入促進、会費の減額などを目的とする会員規程や代議員等選任規程、役員報酬規程の改正が、20年10月の第70回理事会および第40回総会で承認され、組織運営における新たなルールに則って改革の総仕上げの段階へ進むこととなった。
このルールと「老施協ビジョン2035」との関係性をわかりやすく整理し、当面取り組むべきことをまとめたのが図表1である。

図表1 全国老施協価格と「老施協ビジョン2035」

改革の定着・総仕上げを引き続き推進

現執行部の任期中最後の開催となった正副会長・委員長会議(通常)が、今年4月6日にオンラインで開催された。この会議で平石会長は「ガバナンス強化では内部統制改革委員会を中心に規程の見直しを行い、事務局体制も強化した。運営の『非近代性』については、テレビ会議システムの活用やオンライン研修の開催を積極的に進め、ある程度の成果を出せたと考えている」と振り返り、「2年間をやり切ったと思うが、改革を定着させるためにも、次の2年間に向けて会長選への立候補届を昨日提出した」と報告した。
全国老施協の改革は一定の成果を上げつつあるが、このほど再任が決まった平石会長は次期も改革の定着・総仕上げを強力に推進していく決意を示している。
全国老施協の定款に掲げられた組織目的は「老人福祉・介護事業の健全な発展と国民福祉の増進」だ。今後、市町村が地域住民の多様な支援ニーズに対し、地域の実情に応じた包括的な支援体制を整備していくなかにおいて、社会福祉法人は地域社会の負託に応え、その役割を果たし、法人税非課税措置とされている期待に応えなければならない。
少子高齢化や国の財政難など、介護をめぐる状況は極めて厳しい。そのなかで、全国老施協には日本最大の高齢者福祉・介護事業者団体としてこの国の介護を守り続けていく責務がある。これを果たすため、組織をあげて組織機能の強化をさらに進めていく。

老施協改革について(一部、会員ログインが必要)

Part2

「老施協改革」の主要項目と実績

「老施協改革」の主要項目と実績

「会議のオンライン化」「事業の選択と集中」「会費減額」などを推進
会議や研修のオンライン化や事業評価の導入、会費の一律減額など、平石会長のもとで進められた主な取り組みについて、その実績や残された課題をみてみる。

会議のオンライン化を進めハイブリッド型対話形式を構築

平石朗会長は就任前から、テレビ会議やオンライン研修の導入の必要性を主張していた。2019年の会長就任後、新執行部のもとで全国老施協はICT(情報通信技術)を活用した会議の実施を進め、オンライン会議やオンラインと対面の会議を組み合わせるハイブリッド型形式の導入も推進。新型コロナウイルス感染症対策として有効であることもあり、これまでなかったスピード感で導入が進み、役員等の各種会議や各委員会などのオンライン化は昨年6月にはほぼ100%に至っている。この取り組みの結果、コロナ禍においても密接な連携や情報共有等が可能になっただけでなく、参加者の交通費や宿泊費の支出が抑えられたことから、コスト面でも大きな成果を生んでいる。
定例のイベントや研修会にも、オンライン実施が広がっている。2020年度の例を挙げれば、9月29日〜30日に予定されていた「全国老人福祉施設大会(山形大会)」を新型コロナウイルス感染症のリスクを考慮して中止とし、これに代えて「令和2年度全国老人福祉施設協議会・Web大会」を動画配信サービス「YouTube」で一般公開した。
また、21世紀委員会は10月13日、「令和2年度21世紀委員会(拡大)」をWeb会議で開催し、「次世代を担うリーダーの育成」という活動目的を改めて明確にした。さらに、今年1月26日、次年度以降を見据えた試行的な開催と位置づけた「令和2年度カントリーミーティング」をオンラインでプレ開催し、未来型思考の課題解決手法を採り入れた新たなプログラムをオンライン上で実施した。
事務職員研修などの研修についても、オンライン・オンデマンドを導入している。
その一つである「令和2年度経営リーダー養成塾」では、半年にわたる全6回のカリキュラムをオンラインで行い、26人の受講者は講義やグループワークに取り組んだ。今年3月17日には、介護人材対策委員会が株式会社リクルートキャリアHELPMAN JAPANグループと共同で早期離職を防ぐことを目的とする「令和2年度新人介護職員向けモチベーション向上・定着オンライン研修」を開催している。

会議や研修のオンライン化を推進

活動を評価する仕組みを採用し評価報告書をとりまとめる

全国老施協の委員会事業において、これまで「事業の評価の仕組み・振り返り」の機能は存在しなかった。
これを改めるために20年11月に発足させたのが、「事業評価委員会」である。これにより各委員会の事業にPDCAサイクル(評価の仕組み)を導入し、計画立案・実施・実施結果の確認と点検・改善の取り組みを循環的に行うようにした(図表2)。

図表2 事業評価委員会の設置

事業評価委員会は各事業が効率的・効果的に行われているかを精査し、事業の効果(費用対効果)を「見える化」することで、事業の「選択と集中」を進めた。
事業評価委員会による事業評価では、少子高齢化の進展や人口減少を念頭に、人材養成・確保、ロボット・ICT、大規模災害などへの取り組みに重点を置き、広報委員会、介護人材対策委員会、ロボット・ICT推進委員会、研修委員会、大会・フォーラム委員会、災害対策委員会の6委員会の事業については各委員長などのヒアリングを行ったうえで評価を行い、その他の委員会等の事業は書面による評価を実施した。
最終的に各委員の評価結果を踏まえて委員間でさらに検討を行い、その成果を20年12月、「事業評価報告書」としてとりまとめている。この報告書は総論で「事業の整理の必要性」を打ち出し、「今後、全国老施協の各事業については、費用対効果を踏まえつつ、その効果や意義を見極め、選択と集中という視点で事業の整理を図っていくことが求められる」と指摘している。
また、「事業の運営の手法」について、事業の方向性を大きく変革していく場合には、委員会において事業の企画立案を行い、理事会・総会における事業計画・予算の承認のもとで事業を実行していく仕組みを維持しつつも、「トップダウンで物事を進めていくことが重要になってくる」とし、「個別の事業の運営に当たっては、他の関係機関等との連携を検討」するとともに、全国老施協内部でも「委員会間で相互に事業内容を理解し、連携を図ることが必要である」と提言している。
さらに、報告書は、重点的に評価を行った先の6委員会をはじめ、各委員会(部会)の事業についての評価も記載しており、次年度の事業計画の策定と予算編成作業、そして今後の全国老施協の事業展開を検討していくうえで参考にするよう求めている。

広域感染症災害救援事業を5つの柱で展開

全国老施協執行部の新体制がスタートした翌年の20年は新型コロナウイルス感染症が世界各国に拡大し、日本でも重症化リスクの高い高齢者が入所する高齢者介護施設では感染防止等の対応が迫られることになった。
当初、重大な課題となったのが物資の不足だった。これについて全国老施協は、手袋の調達から対応を開始し、業者探しや物資の手配・確保に努め、取り扱う物品も増やしていった。
20年6月には、高齢者介護施設・事業所での感染症の発生や拡大を防止するための取り組みに対する総合的な支援を行うとともに、感染症の発生した介護施設等において業務に従事した職員等を支援するため、「広域感染症災害救援事業」を創設した(図表3)。

図表3 広域感染症災害救援事業の5つの柱

事業の5つの柱のうち「感染防止対策関係動画の作成」では、防止対策のみならず、新型コロナウイルス感染症における「濃厚接触者等へのケア」を含めた解説動画を一般公開している。動画は感染症専門医の監修で制作したもので、12の具体的なシーンごとに実践的なノウハウを紹介している。また、全国老施協ホームページに「新型コロナウイルス感染症対策特設ページ」を設け、関連情報の包括的な提供に努めている。
「各種相談窓口の設置」では、関係者のメンタル・ストレスの相談を行う「JSここメン(こころメンテ)」も実施し、特設サイトでの情報提供や保健師および産業医によるメールや電話などでの相談対応を実施している。事業所等への風評被害等についても、専門家にメールで相談できる「風評被害等のコミュニケーション対応支援サポート窓口(JS-CS)」を設けている。

制度政策検討会議を開催し介護報酬のプラス改定を実現

以前の全国老施協には、その主張を国の政策に反映させるために制度・政策の動向を討議・検討し、エビデンスを構築する機能が不足していた。
今回の令和3年度介護報酬改定に向けて、全国老施協は新たに「制度政策検討会議」を設け、正副会長・委員長会議、各都道府県老施協などを通じて介護現場の声を集め、常任理事会で整理したうえで、「令和3年度介護報酬改定(各論)に関する提案について」(要望書)をとりまとめた。要望書では、全国老施協の「介護老人福祉施設等平成30年度収支状況等調査」で特別養護老人ホームの3分の1が赤字になっていることを踏まえ、基本報酬のプラス改定実現を訴えるとともに、基準費用額や30床特養の課題に対する具体的な要望も盛り込んだ。また、介護報酬改定に向けた審議が行われる厚生労働省の社会保障審議会介護給付費分科会にもこの要望書を提出し、委員として参加した小泉立志理事が主張を展開した。

平石要望

介護報酬改定については、平石会長と参議院議員のそのだ修光常任理事が、厚生労働省や政府与党にプラス改定を求める要請活動を積極的に行った。あわせて、コロナ対策として、高齢者施設でのPCR検査の充実などを訴える働きかけも行い、コロナ対策については、令和2年度補正予算による介護従事者への慰労金支給、かかりまし補助金制度、高齢者施設の利用者と職員に対するPCR検査の充実などが実現している。
こうした活動が今回の介護報酬改定での0.7パーセントのプラス改定に結実したのは言うまでもない。介護職員処遇改善加算・特定処遇改善加算の運用の見直しや介護分野における文書量削減などについても、全国老施協は介護現場の声をもとに国に働きかけを行っており、多くの事項が実現に至っている。

「会費の1割値下げ」など予算の適正化を推進

全国老施協では事業の選択と集中を進めることにより、運営コストの削減も進めている。その成果を会員に還元するため、オンライン会議の導入によるコスト削減に伴う会費の「一律一割削減」を今年4月1日から実施した。あわせて旅費規程の見直しを行い、出張旅費を定額支給から実費精算に改定した。これに伴い、旅費申請書等の様式も変更し、申請書や領収書等の提出をオンラインで行えるようにしている。
また、全国の会員とのより密接なつながりを築くため、新たなツールとしてスマートフォンのアプリケーション・サービス(老施協ドットコム)も開発中だ。会員と直接つながることで会員との絆を強化し、情報のよりスピーディーな発信を行うとともに、会員の希望や意識・行動を把握・分析し、現場が直面する課題に基づく政策提言の立案などに活用していく。
平石会長は就任前から、デジタル技術を活用し、現場と全国老施協が直接つながる仕組みの必要性についても訴えていた。この国の介護を、ひいては国民生活を守り続けていくためには、全国老施協の会員が一丸となって活動していくことが不可欠である。