特集

認知症最前線

認知症BPSDケアプログラムの取り組み③

2021.4 老施協 MONTHLY

認知症の症状を統一された基準で初期段階から把握し、適切なケアを行うことで認知症症状の改善に役立てる――。「認知症BPSDケアプログラム」を先駆的に導入した施設を紹介する連載の最終回は、職員が症状の背景要因分析からケアの評価に至るプロセスに直接関わることで、認知症ケアの質の向上に努めている特別養護老人ホーム「マザーアース」の事例です。

社会福祉法人崇徳会高齢者総合ケアセンター/特別養護老人ホームマザーアース


多職種で情報共有しながら全員が統一したケアを実践

利用者のお気に入りの体操を夕食前に実施。いつも笑顔で参加していただいている

利用者全員をNPI評価
ケアの対象者を絞り込む

1992年7月に埼玉県ふじみ野市に開設された、社会福祉法人崇徳会特別養護老人ホーム「マザーアース」(埼玉県ふじみ野市)は、「明るく健康で豊かな高齢期の生活に寄り添う」という法人の基本理念のもと、個々の利用者が尊厳を持ち、その人らしい人生を送るための支援を行ってきました。施設内にはショートステイ、デイサービス、居宅介護支援事業所、地域包括支援センターを併設しており、地域の高齢者の暮らしを支える役割も担っています。

脳トレに挑戦する利用者。最初のうちはいつも座っている席で行っていたが、やがてテーブル席でほかの利用者と楽しそうに取り組むようになった いつもレクリエーションに積極的に参加し、食事用エプロンも自ら進んで畳む利用者

同施設では2019年から「認知症BPSDケアプログラム」を導入しています。きっかけとなったのは、東京都医学総合研究所主催による「アドミニストレーター研修」に2人の職員が参加したことでした。同研修を受講してアドミニストレーターとなった、介護サービス課のケアワーカー・廣澤泰奈さんは、「このプログラムが薬に頼らないケアをめざしているということだったので、理想のケアに少しでも近づけることができるのではないかという期待感がありました」と振り返ります。
同施設ではまず、利用者70人全員を対象に、認知症特有の行動・心理症状の有無や程度などを調べるNPI評価を行い、そのなかから得点が高かった人(認知症症状が強い人)をBPSDケアプログラムの対象者に選びました。
もう一人のアドミニストレーターである、介護サービス課課長の福島哲史さんは、「対象者に関わる多職種の人たちは多忙で、時間を割いて集まることが難しいため、みんなにプログラムの趣旨や方法について説明し、周知するまでに時間がかかりました」と、多忙な介護現場でプログラムを導入することの難しさを訴えます。
ケア計画を立て、それを実践していく過程においても、日常業務に追われるなかで、多職種での情報共有とケアの統一の徹底が求められます。また、ケア計画はどの職員でも実践できる内容であることが重要であり、難易度の高いケアや手間のかかるケアにしないという点にも配慮しなければなりませんでした。

マザーアースのアドミニストレーター

ケアの視点を変えながら試行錯誤を重ねる

同施設では、これまでに10人弱の利用者にBPSDケアプログラムを実施しました。すべての事例において、すぐに顕著な効果が見られたわけではなく、そのつどケア計画の見直しが必要になるケースもありました。
「効果が出なければ、ご利用者様の環境をどう変えればいいだろうかと職員同士で話し合い、新たなケア計画を立ててしばらくそれに基づく取り組みを続け、再び評価を行う。そうした試行錯誤を繰り返すプロセスを通して、私たちもご利用者様を今まで以上によく観察するようになりましたし、職員間のコミュニケーションも活発になりました」と、廣澤さんは話します。

特別養護老人ホーム マザーアースの取り組み

また、NPI評価の得点が下がらない場合でも、利用者の小さな好転を見いだし、すぐにケア計画を変えずにしばらく続けてみるという判断に至った事例もありました。たとえば、初回のNPI評価の得点が20点で、興奮と易刺激性・不安定性が強かった80代の女性のケースでは、色ぬりや脳トレに取り組んだり、食後に洗濯物を畳んだりといった活動をしてもらうケア計画を立てて実践しました。
「この女性の場合、1か月半後の評価でも得点は変わらず20点でしたが、ホーム内の活動に積極的に参加され、活動の最中には興奮が見られなくなりました。そこで、さらなる環境改善に努めつつ、ケア計画を継続することにしました」と、福島さんは説明します。

図表1 AさんのNPI評価の推移/図表2 BさんのNPI評価の推移

“独りよがり”ではないみんなで関われるケア

BPSDケアプログラムを導入したことに、大きな意義を感じている職員もいます。介護サービス課課長補佐の高倉愛さんは、これまで自分や周囲のベテラン介護者が行ってきた認知症ケアのやり方を見直すきっかけになったと、次のように評価しています。
「キャリアが長く、重度の認知症の方への対応にも慣れている介護職の多くは、ご利用者様が問題行動を起こしたとき、とりあえずその場だけ落ち着いていただければいいという対応をしがちでした。各職員が自分一人の判断で、“独りよがりのケア”をしていたともいえます。しかし、プログラムは、症状分析や背景要因の解明、効果の評価にスタッフ全員が関わるので、いろいろな職種の目線で分析や評価ができます。また、若い職員も指示をされて動くのではなく、『自分もプロセスに関わっている』と実感できるので、やりがいを感じられるのではないでしょうか」
今後の課題について、相談支援課主任で生活相談員の名和純平さんは、「現場の職員の経験年数やスキルにばらつきがあり、正直なところ、今はプログラムを正しく理解せずに対応してしまっている職員も見受けられます。すべての職員にプログラムの趣旨や方法をきちんと周知するために、今後、全職員を対象とした研修の機会を設ける必要があると感じています」と語ります。
研修などを通じて職員の理解度が進めば、より多くの利用者にBPSDケアプログラムを導入することができるようになります。副施設長の稲荷山渉さんも、「できるだけ多くのご利用者様をプログラムの対象にしていきたい」としつつ、施設としての今後の課題は「職員の教育」だと強調します。

相談支援課主任で生活相談員の名和純平さん 介護サービス課課長補佐の高倉愛さん 副施設長の稲荷山渉さん

「新しいプログラムを導入すればそれで良し、というふうには考えていません。日頃からご利用者様を尊重し、真摯に向き合い、寄り添うことで行動・心理症状の誘発を防ぐこともできます。各職員がそうした対応ができるよう、介護の担い手としての意識の持ち方からしっかり教育することも大切だと思っています」

社会福祉法人崇徳会 特別養護老人ホーム マザーアース

社会福祉法人崇徳会
特別養護老人ホーム マザーアース(定員70人)
地域密着型特別養護老人ホーム
マザーアース サテライト(定員29人)
理事長・施設長:野溝守
埼玉県ふじみ野市大井621-1
TEL:049-261-0700 FAX:049-261-0701
http://mother-earth.or.jp