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介護の仲間のため全国で要請活動を展開しよう!

職員の給与改善実現への道筋
養護老人ホーム/軽費老人ホーム/ケアハウス

2022.02 老施協 MONTHLY

環境的・経済的等の理由から自宅での生活が困難な高齢者を受け入れる養護老人ホーム、60歳以上の自立した生活に不安な人などが入居する軽費老人ホーム・ケアハウス。これらの施設で働く職員についても、2月から実施される介護保険施設の職員の給与引き上げと同様に適切な給与改善が行われるよう、全国老施協は国への要請活動に取り組むとともに、全国規模での対応を実現するため、自治体に対する要請活動を支援している。
本特集では、一連の取り組みの内容や意義を改めて紹介する。


1:現状
平均より依然として低い介護従事者の賃金
介護職員処遇改善支援補助金による給与引き上げの概要

今年2月から行われる月額9,000円の処遇改善

岸田政権が昨年11月19日に閣議決定した新たな経済対策「コロナ克服・新時代開拓のための経済対策」において「公的部門における分配機能の強化」が打ち出され、「新型コロナウイルス感染症への対応と少子高齢化への対応が重なる最前線において働く方々の収入の引き上げを含め、全ての職員を対象に公的価格の在り方を抜本的に見直す」ことが盛り込まれた。具体的に今年2月から、令和3年度補正予算で介護や看護などの現場で働く人々の収入を3%程度(月額9,000円)引き上げるための措置を前倒しで実施し、これにより全産業平均より低いと指摘される介護職の賃金水準の底上げが図られる(図表1)。

図表1 特養、養護・経費等の職員の平均月収(ボーナス込み)の推移

今年10月以降についても臨時の報酬改定を行い、補正予算事業と同様の措置を講じることとなり、介護報酬に引き継ぐことを前提に現在、厚生労働省がスキームを検討している。1月12日の社会保障審議会介護給付費分科会で提示された同省案によれば、現行の介護職員処遇改善加算等と同様に、介護サービスの種類ごとに一律の加算率を介護報酬に乗じて単位数を算出する形で、新たな加算を設定する(図表2、3)。

図表2 介護職員の処遇改善の実施イメージ(案)※常勤換算1人当たり月額9,000円
図表3 新加算のイメージ(案)

養護・軽費等の介護職員にも同様の処遇改善が不可欠

慢性的な人材不足のなか、介護職員のさらなる処遇改善が図られることは歓迎すべきだが、全国老施協として懸念したのは、当初、養護老人ホーム、軽費老人ホーム・ケアハウス(以下、養護・軽費等)で働く職員も対象となるかが明確にされず、また令和4年度後半からは介護報酬での対応となるとの報道もあることだった。同じように高齢者福祉・介護を担っているにもかかわらず、適切な対応が行われないのではという危惧を抱いたのだ。
ただでさえ、これらの施設は自治体から交付される措置費・事務費等の額が据え置かれることなどにより、長年厳しい経営を強いられている。全国老施協の「収支状況等調査」によれば、養護の約4割、軽費の5割以上、ケアハウスの4割以上が赤字経営で、職員の処遇改善も進まず、先の図表1にもあるように、介護老人福祉施設の介護職員と比べても相当低い水準にあるのが実情だ。

2:働きかけ
今こそ実現を!「養護・軽費等」の給与改善
地方交付税措置による改善実現に向けて、一体的な活動が求められる

同様の措置が行われるよう活発に各方面に要請

今回の公的価格引き上げによる給与改善の対象が介護保険法に基づく施設の職員に限定され、老人福祉法に基づく養護・軽費等の職員は対象外とされれば、さらに求職者が減りかねず、最悪の場合は経営が立ち行かなくなり、立地する地域社会に大きな影響が及ぶ。
全国老施協は早くからこれを重大な問題ととらえ、参議院議員のそのだ修光常任理事を先頭に、同様の処遇改善に向けた措置がとられるよう、首相官邸や厚生労働省、総務省など各方面に対する強力な要請活動を展開した。
全国老施協の要求を受けた厚生労働省は昨年12月24日、「老人保護措置費に係る支弁額等の改定について」(技術的助言)を自治体に通知している。このなかで、「養護老人ホーム及び軽費老人ホームに勤務する職員については、この処遇改善の対象となっておりませんが、その業務内容は介護職員の業務内容に類似していることなどから、必要な処遇改善を図ることが重要であると考えており、老人保護措置費に係る支弁額等について、適切に改定いただくようお願いします」と明記され、「なお、この改定に伴い生じる経費については、令和4年度から地方交付税措置を講じることとされております」という文言が盛り込まれた。
これは一言一句、厚生労働省と総務省が交渉して詰めた文言であり、総務省も今年1月24日に自治体に発出した事務連絡で同様の表現を用いている。

緊急会議で自治体への要請活動の具体的方法を説明

厚生労働省と総務省の合意により、養護・軽費等の支援員・介護職員の給与改善への道筋がついたことになるが、地方交付税は使途が特定されない一般財源に繰り入れられるため、どのように支出するかは自治体の裁量に委ねられている。各自治体には、養護・軽費等への措置費・事務費等の引き上げの必要性を理解してもらわなければならない。
そこで全国老施協は今年1月5日、令和3年度都道府県・指定都市老施協会長会議を緊急開催。自治体における令和4年度予算の策定時期である1月中に全国の事業者が一体となって要請活動を行うことの重要性を改めて確認するとともに、要請の対象や要請すべき措置費・事務費等の増額幅など要請活動の具体的方法を説明し(図表4)、自治体の担当部局との信頼関係構築の重要性や、今回の厚生労働省の通知を財政部局から知らされていない可能性を踏まえるといった要点を共有した。また、地方交付税や養護・軽費等の措置費・事務費等に係る「単位費用」などについての理解を深めるための資料も準備している(図表5)。

図表4 自治体に対する要請活動の具体的方法
図表5 養護老人ホームおよび軽費老人ホーム・ケアハウスにかかる地方交付税

介護に携わる仲間のため全国で一斉に行動を

たとえ1月中の要請活動が不発に終わり、当初予算で措置費・事務費等の引き上げが実現できなくても、補正予算で整合性をつけることは可能であり、引き続き粘り強く要請を行っていく必要がある。全国老施協としては措置費・事務費等がどの程度増額できたかを把握し、一覧表に整理して、未対応の自治体に対して増額を要請する際に活用していく予定だ。
全国老施協では要請活動全般を支援するため、必要な資料、想定問答集、要請書ひな型などをホームページにアップしている。「介護職員処遇改善支援補助金と新たな処遇改善加算に関するQ&A」や「養護・軽費等の措置費・事務費の引き上げのための自治体に対する要請活動に関するQ&A」も新たにリリースした(会員限定)。
介護全体の底上げを図るためにも、お互い介護に携わる仲間として、全国で一斉に行動する必要がある。より一層の理解と積極的な対応をお願いしたい。


ACTION
全国老施協の要望活動

コロナ禍における高齢者福祉・介護分野への支援について(要望・改定版)(令和3年11月1日)

昨年11月2日、会員から寄せられた要望を幅広くとりまとめた要望書(11月1日付け)を、そのだ修光常任理事から厚生労働省の土生栄二老健局長に手交。8月末にも、そのだ常任理事はオンラインで各都道府県・指定都市老施協から現場の声をヒアリングし、これに基づき要望書を提出しており、その第2弾にあたる。このなかで、介護保険以外の財源による養護・軽費等の職員の給与についての配慮も求めている。

介護職員の給与の公的価格に関する要望について(令和3年11月25日)

内閣府に公的価格評価検討委員会が設置され、昨年11月9日に全世代型社会保障構築会議との合同で第1回会議が開催された。
全国老施協は11月24日に制度政策検討会議を開催。同委員会への要望書をとりまとめ、そのだ常任理事より厚生労働省老健局高齢者支援課長に手交し、同委員会への伝達と要望内容の実現に向けた同省のバックアップを要請した。この要請は、給与の改善の対象を介護保険施設事業の介護職員に限定することなく、養護・軽費等の職員を含め高齢者福祉・介護関係の職員に広げることを重点項目とするもの。
要請の場には大山知子副会長と利光弘文養護老人ホーム部会長が同席し、現場の生の声を訴えた。厚生労働省からは、これらの施設の財源については地方移管をしているので、今回の措置の対象とすることは困難である旨の説明があったが、職員の処遇改善の知恵をもっと絞れないかという観点から多角的に再検討をするよう求めた。

養護老人ホーム・軽費老人ホーム・ケアハウスに従事する職員の給与の改善に関する要望について(令和3年12月6日)

官邸も含めた各方面に要請活動を進めると同時に、昨年12月6日には養護・軽費等に従事する職員給与の改善に関する要望書(後藤茂之厚生労働大臣宛)をとりまとめ、これらの施設を所管する厚生労働省の古賀篤副大臣に直接手交した(写真)。そのだ常任理事や上月良祐参議院議員、大山副会長、利光養護老人ホーム部会長、藤井陽子軽費老人ホーム・ケアハウス部会長、北條憲一専務理事らが要望を述べた。
厚生労働省には8月、総務省に対して自治体への地方交付税交付金の算定基礎に、これらの施設への措置費・事務費等のアップを織り込むよう働きかけてもらっているが、医療・介護・保育分野の公的価格の改善の議論が出てきたことを契機に改めて強く要求した。
これら一連の強力な要請活動が実を結び、今回、養護・軽費等の職員の収入引き上げへの道が開かれたといえる。


INTERVIEW
今回の要望活動を突破口にして積年の課題解消の動きにつなげたい

大山知子 全国老施協副会長(養護老人ホーム部会、軽費老人ホーム・ケアハウス部会担当)

大山知子
全国老施協副会長(養護老人ホーム部会、軽費老人ホーム・ケアハウス部会担当)

全国老施協の担当部会で自治体の対応実態を調査

昨年、岸田内閣が「保育士等・幼稚園教諭、介護・障害福祉職員」の収入の引き上げを打ち出した際、気になったのは「介護」がどう解釈されるのかということでした。広義に解され、養護老人ホーム、軽費老人ホーム・ケアハウスの支援員や相談員も対象としていただけるのか。この疑問を厚生労働省に投げかけたところ、「老人福祉法に規定されているため、介護の括りに入らない」という回答でした。
これを聞いて、大変だと思いました。介護保険法上に規定されたものだけが介護ではありません。養護・軽費・ケアハウスは社会的・経済的・環境的に厳しい状況にある方々をお預かりしますが、介護を必要とする人については支援員や相談員が支えています。同じように高齢者福祉・介護を担いながら財源が異なるだけで対象外とされるのは不合理であり、同様の処遇改善を求めなければならないと、そのだ修光常任理事らとともに要請活動を行いました。
要請活動の後、厚生労働省と総務省から地方交付税措置を講じることを明記した通知を自治体に発出してもらえました(※厚生労働省「老人保護措置費に係る支弁額等の改定について」(令和3年12月24日)、総務省「令和4年度の地方財政の見通し・予算編成上の留意事項等について」(令和4年1月24日))。両省がそろってこれだけ明確な形で処遇改善の必要性を示したのは画期的なことです。とはいえ、一般財源化されている以上、国の通知で全自治体が自動的に動いてくれるわけではありません。
今回、都道府県・指定都市老施協会長、養護・軽費・ケアハウスの施設の代表者の皆さんが一斉に要請活動を行ってくださった結果、自治体から「介護保険施設と足並みをそろえて2月から」「新年度の補正予算で」といった対応が次々に示されることとなりました。今後、全国老施協の養護・軽費・ケアハウス部会では、自治体の対応の実態を調査し、成功事例、金額などを会員の皆さんに示し、行政との話し合いの参考にしていただこうと考えています。

共生社会を構築するうえで必要な施設としての自負を

今回の要請活動を通して、多くの方に、ただ不遇を嘆いて自治体が措置してくれるのを待つだけでなく、自分たちで行動を起こしていくことが重要だということを改めて強く自覚していただけたように思います。
養護・軽費・ケアハウス部会としてはこれを突破口ととらえて、積年の懸案事項の解消に向けた動きにつなげていきたいと考えています。介護保険の報酬改定に取り残されがちな処遇改善や人材確保が喫緊の課題ですし、自治体に措置費等の単価増額を求める交渉も続けていかなければなりません。何より「措置控え」の解消に努めていくことも重要です。経済格差や高齢者の貧困が社会問題化するなか、なぜこれだけの空床があり、有効活用できていないのかを訴えていく必要があります。
日本の社会福祉の根底を支えてきた養護・軽費・ケアハウスですが、社会の変化・ニーズに対応した新たな支援の仕方が求められています。国が進める共生社会を構築するうえで、多様な課題を抱える高齢者を支援できる専門職がそろう養護・軽費・ケアハウスは不可欠です。
養護・軽費・ケアハウスは、地域で活躍すべき施設であるとの自負を持ち、地域貢献事業をしっかり行い、地域の中に光が当てられない高齢者がいることを意識し、地域と連携して安心・安全な地域づくりを進めていかなければなりません。今後も会員の皆さんと連帯し、こうした活動を支えていきたいと思います。