特集

キラリ施設紹介

社会福祉法人栄和会
ケアハウスやすらぎ

2020.11 老施協 MONTHLY

入居者の“幸せな生活”実現に向け
要望に応じた外出や社会参加を支援

もしも自分が施設で暮らすことになったら、何を望むだろう? その問いを全職員が自身に投げかけることが、入居者にとって本当に必要なサービスの提供につながり、生きがい支援を実現する鍵となりました。

笑顔を失った入居者に「生活の質調査」を実施

1994年に開設し、2006年には特定施設入居者生活介護の指定も受けた社会福祉法人栄和会ケアハウスやすらぎ。近年、同施設でも入居者の高齢化と重度化が進んでいます。加えて、区外からの受け入れが増加し、土地勘がない入居者のなかには、外出をせず居室に引きこもる姿が見られるようになっていました。日に日に笑顔が少なくなっていく入居者を問題視した同施設ではその原因を探るため、17年8月、一人ひとりの生活実態や意識・行動の変化を聞き取る「生活の質調査」に乗り出しました。
その結果、外出について入居者からあがったのは「外出する目的がない」「転居してきたので土地勘がない」「交通機関を使えない」といった声。生活意識の面でも、「部屋に一人でいると孤独感がある」「毎日予定もなく単調」など意欲の低下を訴える声が多くありました。しかし一方で、「買い物に行きたい」「自分が好きな趣味を楽しみたい」といった前向きな要望もあることがわかりました。
「それまでの私たちは、高齢だから、認知症だから、土地勘がないからといった理由をつけて、引きこもる入居者さんを見てもあまり違和感を覚えなかったように思います。そもそも、外出しなければリスクがなく安心といった感覚が染みこんでいたこともあり、まずは職員の意識を変えなければならないことを、全員で共有しました」と、業務係長の多田祥子さんは話します。

ブレストを通して「入居者主体」へ意識統一

職員の意識を変えるために取り組んだのは、ブレーンストーミングでした。テーマは「もし私がケアハウスで暮らすとしたら」——。外出や食事など生活全般において、自分ならばどのような要望を持つのか、全職員がグループに分かれてディスカッションを行い、「好きな時間にお風呂に入りたい」「自由に外出をしたい」など次々とあがる意見に対して、それをかなえるためには何をすべきなのかを徹底的に話し合いました。
「どうしたらそれぞれの入居者さんの願いを実現できるのか、みんなでいろいろな話をすることができました」と、業務主任の杉山淑子さんは当時を振り返ります。
こうして、全職員で意識統一を図り、必要なことは「入居者の自己決定に基づき、主体的な生活を営むための支援」であると、自らの役割を再定義したといいます。
「大半の職員に根づいていた『何でも丁寧に支援をすることが良いケア』という意識が、入居者さん自身の生きがいを奪うことにもなりかねないと気づく機会になりました。一方で、特に認知症の入居者さんに対しては一時的な対症療法に傾きがちなため、改めて個々のご家族構成や生活歴等を把握する重要性を呼びかけました」と、施設長の中野升さんは説明します。

自由なサークル活動や地図片手の「町ぶら」を満喫

まず目に見えた変化は、自主的なサークルやクラブ活動の活発化です。最初は職員も手助けをし、新たに4つのサークル・クラブが発足しました。そのうちの一つの手芸サークルは、職員が社員証にぶらさげていた同法人の非公認キャラクター「えいちゃん」に注目した入居者が自主的にマスコット制作を開始したことから、活動が大きく広がっていきました。メンバーが制作した、食堂や就職説明会で活用される椅子カバー、社員証やドアノブなどに付けるマスコットは、今では300個までになっています。誰かの役に立てているという実感から、「今が一番幸せよ」と笑顔を見せるメンバーもいます。
当初の課題の一つとなっていた外出支援については、入居者一人ひとりの行動範囲に基づく個人ごとの「町ぶらマップ」を作成し、活用してもらうようにしています。きっかけは、同施設で共に暮らしていた茶飲み友達を亡くし、引きこもりがちだった入居者を励ますための外出支援でした。「一緒に行っていた喫茶店で、コーヒーを飲んで厚焼きトーストを食べたい」と意欲を見せはじめたその入居者のために、一人でもその店に行けるように道順を記したマップを作成したのです。
生きがいを取り戻した入居者の姿に手応えを感じ、ほかの入居者のマップづくりにも着手。交通機関を利用する場合は裏面に時刻表を記載するとともに、行き先が商業施設ならば施設の案内図も用意しました。計17人の入居者は、それぞれ自分用のマップを手に外出を楽しむようになっています。「行動範囲を把握することで、以前は心配しながら送り出していた職員も、今は自信を持って『いってらっしゃい』と送り出せるようになっています」と、杉山さんは笑顔を見せます。

個別支援に注力することが入居者の幸せにつながる

具体的な取り組みとしてほかにも、排泄用品の使い方や災害対策など、入居者が知りたいテーマについて学ぶ「やすらぎカフェ」もあり、知識欲旺盛な入居者に好評です。以前から活動していたシネマクラブも、物品の準備などを入居者自らで行うスタイルへと変更し、若手職員との会話も弾む人気のクラブとして活動が続いています。
現在、こうした活動は新型コロナウイルス感染拡大の影響で縮小や中断を余儀なくされています。しかし、「得るものも多い」と、多田さんは前向きです。
「入居者さんと職員による少人数の活動になったことで、入居者さんのことを個別により知ることのできる機会になっています」
中野さんも、「たとえ結果がすぐに伴わなかったとしても、諦めずに個別支援に取り組むことが私たち専門職の責務です。それが、当施設で暮らす入居者さんの幸せにつながると信じています」と、今後の活動に期待を寄せます。

社会福祉法人栄和会
ケアハウス やすらぎ

(定員50人)
北海道札幌市厚別区山本750-6
TEL:011-896-5014 FAX:011-896-5015
URL:https://www.eiwakai.or.jp/