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「相談、体験・試用」が可能な「プラットフォーム構築事業」がスタート!

最新テクノロジー導入で
サービスの質向上をめざせ

2020.10 老施協 MONTHLY

介護現場におけるサービスの質や生産性向上の推進、産業育成の観点から国は、介護ロボットやICTの普及に力を入れている。その一環として厚生労働省はこのほど、相談対応や実証支援などの取り組みを行う「介護ロボットの開発・実証・普及のプラットフォーム構築事業」を全国規模でスタートさせた。最新テクノロジーの導入・活用を考えている介護施設・事業所にとって、同事業は大きな力となるはずだ。
本特集では、国の介護ロボット・ICT導入支援策の概要を振り返りつつ、同事業の内容にスポットを当てる。

ここでご紹介する「プラットフォーム構築事業」はこちら


介護人材の不足が深刻化するなか、質の高い介護サービスや業務の効率化を実現するため、介護ロボットやICT(情報通信技術)などの先端テクノロジーの活用が期待されている。加えて、新型コロナウイルス感染拡大防止の観点から、介護現場でも「新たな生活様式」への対応が求められており、リモート面談などの非接触のテクノロジーが注目されている。
介護ロボットやICTの導入の機運は高まっているものの、これまで先端テクノロジーになじみのなかった介護施設・事業所は少なくない。また、介護現場のニーズに即した機器の開発・実証も課題として指摘されてきた。
国がこれらの課題を整理したうえで今年8月3日にスタートさせたのが、「介護ロボットの開発・実証・普及のプラットフォーム構築事業」(以下、プラットフォーム構築事業
以下、同事業の概要のみならず、介護ロボットやICTを導入する際に利用できる最新支援策などを説明する。


1 介護ロボット・ICT開発・普及

介護現場での普及に向けて国が各種施策を展開

国は近年、介護にかかる先端テクノロジーの開発・普及を加速化するための支援事業に力を入れてきている。厚生労働省や経済産業省が担当する介護ロボットやICT機器の開発、介護現場への導入支援の取り組みについて、これまでの流れを整理する。


厚生労働省と経済産業省が連携介護ロボット開発・普及を支援

人手不足に悩む介護現場で注目されているのが、介護ロボットやICTなどの先端テクノロジーの活用。これは業務負担を軽減するだけでなく、高齢者の自立支援の促進や質の高い介護サービスの実現に寄与することが期待されている。
産業育成という観点もあり、国は介護ロボット・ICTの開発のために、さまざまな施策を講じてきた。
2013年6月に第二次安倍内閣が閣議決定した「日本再興戦略」には、安価で利便性の高い介護ロボットの開発を目的とする「ロボット介護機器開発5カ年計画」が盛り込まれ、開発支援の重点分野として「移乗支援」「移動支援」「排泄支援」「認知症の見守り」「入浴支援」の5分野8項目が定められた。これが17年10月の改訂で6分野13項目に拡充されている(図表1)。
介護ロボットの普及を図るため、国はユーザーに対する支援も行っている。
15年度の厚生労働省補正予算の介護ロボット等導入支援特別事業により、地域医療介護総合確保基金を活用した補助制度が都道府県単位で実施され、支援内容はその後拡充されている。

介護現場のニーズと開発企業のシーズをマッチング

期待されながらも当初、介護ロボットは価格の高さや使い勝手などが課題として指摘されていた。これに対し国は、着想段階から介護ロボットの開発の方向性について開発企業と介護現場が協議して、ニーズを反映した提案内容を取りまとめる組織として、18年度に介護ロボットニーズ・シーズ連携協調協議会を全国に設置した。
この事業をもとに今年度立ち上げたのが、介護事業者と介護ロボット開発企業の双方を支援する「プラットフォーム構築事業」だ。

時代の趨勢として求められる介護現場の生産性向上

介護ロボット導入や、その要因となっている人手不足をめぐる議論のなかで近年、介護現場の生産性向上が強調されるようになっている。
厚生労働省は19年度に介護現場革新会議で生産性向上の推進を図るための基本方針をとりまとめ、それに資するガイドラインを作成している。
19年度は、基本方針を踏まえた取り組みをモデル的に普及するため、国が率先して7自治体(宮城県、福島県、神奈川県、三重県、熊本県、横浜市、北九州市)でパイロット事業を実施。この事業には業務の洗い出し、元気高齢者の活躍、介護の魅力の向上や発信とともに、介護ロボットやICTといったテクノロジーの活用も含まれている。
厚生労働省は今年度、パイロット事業の成果を盛り込む形でガイドラインを改訂し、自治体や施設・事業所それぞれに向けたガイドラインを新たに作成した。都道府県版の介護現場革新会議を開催し、各地域にモデル施設を育成して、その取り組みを近隣の施設・事業所に波及させていくことを狙ったものであり、このなかで、より良い職場環境の実現の方策として介護ロボットやICTの活用が位置づけられている。
なお、本事業以外にも「業務改善助成金」や「IT導入補助金」など、ICT導入を支援するさまざまなメニューが各省庁で示されている。自法人に適した支援を検討・活用していただきたい。


2 今年度予算・補正予算で拡充

介護ロボット・ICT導入支援の概要

国は今年度、新型コロナ感染対策に取り組む介護現場を支援するために大規模な補正予算を組み、見守りセンサーや非装着型の移乗支援の介護ロボットといった、非接触対応に有効なテクノロジーの導入補助を大幅に拡充させている。


新型コロナ対策のため各種補助制度を充実・強化

国が進める介護ロボット・ICTの普及に思いがけない形で影響を及ぼすことになったのが、猛威を振るう新型コロナウイルス感染症だ。全国への緊急事態宣言発令や「3つの密」を避けた「新しい生活様式」が求められるなどの異例の事態となり、感染による重症化リスクが高い高齢者をケアする介護施設・事業所も困難に直面している。
その一方で、感染症拡大予防のため、リモートワークが広まりWeb会議システムが活用されるようになるといった働き方の変化も生じるなか、介護現場でも感染予防対策として非接触の面談のためのリモート技術や見守りセンサーなどが一層注目されている。
新型コロナ感染拡大という危機に対し、国は大規模な令和2年度補正予算を決定し、非接触に資する介護ロボットやICT導入にかかる各種補助も大幅に拡充させている。

地域医療介護総合確保基金による介護ロボット導入支援

ICTを活用した見守りシステムを導入したいと考えたとき、ネックとなるのが設備にかかるコストだ。見守りセンサーにはWi­−Fiの通信環境が求められる。利用者の生命と健康に関わる以上、確実につながるようにするべきであり、これを踏まえて業者に測定してもらうと想像以上のアクセスポイントが必要になることもある。
そうしたなか朗報といえるのが、介護ロボット・ICTの導入補助に活用されてきた各都道府県の地域医療介護総合確保基金の支援内容が今年度の補正予算で拡充されたことだ。
当初予算で見守りセンサー導入に伴うWi−Fi工事、インカム導入の通信環境整備の費用補助が新設され、4月の第一次補正予算の拡充で上限額が750万円に引き上げられた(図表2)。すでに多くの都道府県が予算化しており、夏以降、募集を始めている。
また、非接触型という、移乗支援や入浴支援などの介護ロボットの導入補助の上限額も増額されている。

施設・事業所でのICT導入補助も増額

新型コロナウイルス感染症対策として各種補助などの支援メニューがそろったのは、事業者にとって歓迎すべきことといえる。
制度が複数あるため「わかりにくい」という声も聞こえてくるが、各種制度の内容を把握することで、より効率的にコロナ対策を講じ、業務の負担軽減や効率化を図れるはずだ。
たとえば、地域医療介護総合確保基金で設定されているICT導入補助についても、感染症予防の取り組みなどにより職員の業務負荷が増していることを踏まえ、令和2年度の当初予算で施設・事業所の職員規模に応じて補助を増額し、さらに第一次補正予算で補助額が上限100万〜260万円と倍増している(図表3)。介護記録から請求業務まで一気通貫で対応し、業務効率化に資する勤怠管理やシフト表作成などの介護ソフトが対象となり、そのためのタブレットの導入についても当初・補正予算で拡充されている。

こうした補助制度についてわかりにくい点などがあれば、今年8月から全国11か所に設置された「プラットフォーム構築事業」の相談窓口を利用するとよいだろう。


3 プラットフォーム構築事業

ニーズに合った製品づくりへ向け 介護現場と開発企業をつなぐ!

介護現場とロボット開発事業者をつなぎ、開発・普及を促進するため、国は8月に「介護ロボットの開発・実証・普及のプラットフォーム構築事業」をスタートした。介護事業者にとってもメリットの多い同事業の概要を紹介する。


全国11か所の相談窓口と6か所のリビングラボで支援

厚生労働省は、介護現場のニーズに沿った介護ロボットの開発・実証から普及までを支援し、その流れを加速することを目的とする「介護ロボットの開発・実証・普及のプラットフォーム」を事業化し、8月3日に相談受け付けを始めた。
この事業では全国11か所(図表4)に「相談窓口」が設置され、介護現場(ニーズ)・開発企業(シーズ)双方の介護ロボットに関する相談を一元的に受け付ける。
また、実際に再現した生活空間のなかで実証実験を行い、新しい技術・サービスや介護ロボットの開発を促進する拠点である「リビングラボ」が6か所設けられた。リビングラボが参画して形成したネットワークでは開発企業をサポートしていくほか、介護サービスの質の向上や効率的なサービス提供に向けた政策的課題への対応も行う。将来的にはリビングラボにおける大規模実証などを通じて得られたエビデンスをもとに、介護報酬や介護職員の配置基準が見直される可能性もある。

「見て、聞いて、触れられる」相談窓口では試用貸し出しも

介護施設・事業所は、それぞれ体力が大きく異なり、通信インフラなどの環境も異なる。ICTの活用といっても、どこから手を加えたらよいかわからないという介護事業者も少なくないはず。そこで、介護ロボットなどのテクノロジーに関する多様な相談を受け付けるために設けられたのが、プラットフォームの相談窓口というわけだ。
ここでは効果的な機器に関する相談や導入の補助金の紹介、機器の組み合わせを含めた効果的な活用方法の助言などが無料で受けられる。
ポイントは「見て、聞いて、触れられる」こと。介護ロボットを体験できる展示場を用意しており、試用貸し出し(約30社・30製品)も行う。開発企業の実証に協力する施設としてエントリーすれば、最先端の介護ロボットが試用できるとともに導入の検討が可能となる。
さらに相談窓口では、介護ロボットの活用事例や介護現場での生産性向上方法を紹介するプログラムを盛り込んだ研修会も開催していく予定だ。

介護施設・開発企業ともメリットを享受できる仕組み

介護ロボットの開発企業に対する相談窓口の支援のメニューには各種相談への対応のほか、開発・実証費用にかかるファンドや補助金、出展可能なPRイベントの紹介がある。
相談はスポット的なものに加え、開発の各段階に付き添う形で応じることも可能で、コンセプト設計やプロトタイプ開発、製品の安全性・有効性の評価など、継続的にアドバイスを受けられる。
また、開発企業から製品の評価や効果検証、介護現場での実証支援の要望があれば、リビングラボネットワークに取り次いでくれる。
プラットフォームでは、介護サービスの質の向上や効率的なサービス提供に向けた介護現場での大規模実証などへの支援も行い、開発企業は実証に協力する介護施設などとのマッチングも受けられる。政策課題解決のために介護施設が機器の実証を行う場合には、厚生労働省が介護施設への謝金も負担する。
このようにプラットフォームは、介護施設・開発企業ともメリットを享受できる仕組みとなっている。


4 対談

介護サービスの質向上や働きやすい職場環境の整備につながる事業を展開していく

井上 栄貴

阿比留 志郎

井上 栄貴(いのうえ・えいき)
厚生労働省老健局高齢者支援課課長補佐/介護ロボット開発・普及推進室室長補佐
1999年、労働省(現厚生労働省)入省。労働基準局安全衛生部、人材開発統括官、都道府県労働局(青森、群馬)、大臣官房国際課を経て、2019年7月より現職。経済産業省商務情報政策局ヘルスケア産業課医療・福祉機器産業室室長補佐併任

阿比留 志郎
全国老施協/ロボット・ICT推進委員会委員長


コロナ禍のなか、リモートも活用して事業を展開

阿比留 厚生労働省の介護ロボット開発・普及推進室の役割について教えてください。

井上 介護ロボットなどの新たなテクノロジーを普及させていくためには、介護現場の皆さんの理解を得ながら、効果的な技術を導入することが重要です。当室の役割は、経済産業省と開発支援の連携を図りながら、介護サービスの質の向上・効率的なサービス提供に資するテクノロジーの開発・普及による導入を促進することです。

阿比留 デジタルトランスフォーメーションの流れのなか、ICT化を急がなければならないと思いつつ、どこから手をつければいいかわからないという介護施設・事業所はかなりの数あるものと思われます。このため、8月にスタートした「介護ロボットの開発・実証・普及のプラットフォーム構築事業」の相談窓口は時宜を得た施策だと思います。

井上 施設において、介護ロボットを新規に導入したいとか、一部導入済みだけれど、新たな機器や数を拡充して介護サービスの質の向上と効率的なサービス提供を図っていきたいというときに、ぜひ活用していただきたいと思います。

阿比留 同事業を進めるにあたっては、新型コロナウイルス感染症の影響も少なからずあるのではないでしょうか。

井上 外部の人が介護施設を訪れることができないなど、介護施設も行政機関もコロナ対策を優先せざるを得ないといった状況があります。プラットフォームの相談窓口も、実際に“見て、触れて、体験できる”ことが魅力なのですが、できるだけリモートでも相談可能にすることで、より利便性の向上に努めていきたいと考えています。

阿比留 今後、プラットフォームのリビングラボや相談窓口を増やすお考えはありますか。

井上 来年度以降の展開については、現時点で確たることはいえませんが、担当者として、しっかり予算要求し、相談体制の拡充等を図りたいと考えています。

ICT化を進めるには通信と電力の安定化が不可欠

阿比留 ICT化に伴う今後の課題についてお聞きします。ICT化を進めるにあたり、最大の課題は、通信と電力の安定化ではないでしょうか。すべての介護ロボットは常時、安定した通信環境下で、安定的に電力が供給された状態でなければ正しく機能しません。しかし、停電等により電力が遮断された場合、ほとんどの介護ロボットは機能しなくなります。Wi−Fiを含めほとんどの通信も機能しなくなります。現在は、介護職員が直接居室を訪室、目認していますが、今後、センサー系を活用した業務体制に移行すると、数年後には介護ロボットなしでは業務が回らなくなることも想定されます。
これらを踏まえ、非常用自家発電設備への補助の拡充をはじめ、非常時に対応できる職員研修についても今後しっかりと考えていく必要があると思います。

井上 ご指摘のとおり注意喚起を含め、常に利用者の安全を確保できるよう、意識して取り組んでいただけるようにすることが大切だと思います。あわせてメーカーや施設の声を聴きつつ、より安全で有効なもの、使いやすいものが開発されて普及していくように、これらの支援に貢献していきたいと考えています。

阿比留 ICT化を進めれば、不要になるものもあるはずです。介護業界でよく指摘されるのが、居室の利用者が異常を知らせるナースコールの可否です。そもそも重度で自らナースコールを押せない方もいます。デジタルトランスフォーメーションの流れなども考えれば、見守りセンサーに移行せざるを得ないのではないでしょうか。ナースコールの設備を更新する際、センサーとの二重の設備にするのか、この点を検証していただきたいと思います。

井上 ご指摘ありがとうございます。

介護施設に求められる業務の見直しや標準化

阿比留 先日、全国老施協のロボット・ICT推進委員会が実施した介護現場のICT化に関するアンケート調査の速報結果※を見たのですが、予想以上にICTに詳しい人が多いことがわかりました。積極的に回答してくれた施設に意識の高い職員が多いということかもしれませんが、こうした施設が先導し、地域の他の施設・事業所を巻き込めれば、それほど時間をかけずにICTが普及するのではないかとも感じました。
一方で気になるのは、介護業界には「生産性の向上が人員削減につながるのではないか」「配置基準の見直しが介護報酬削減につながるのではないか」という懸念もあることです。

井上 私たちがめざしているのは、最先端のテクノロジーを介護現場で活用していただくことにより、介護サービスの質の向上や効率的な介護サービスを実現するとともに、介護従事者がこれまで以上に利用者に感謝され、働きがいを感じられるよう労働環境の改善・整備に寄与することです。これを実現する観点から、伴走支援のような形をめざすのが、プラットフォームの介護施設へのアプローチのあり方の一つだと思っています。

阿比留 おっしゃるように、最先端のテクノロジーの導入は介護サービスの質を向上させ、より働きやすい職場環境をつくることを目的とするべきです。介護施設側もその点を十分に理解したうえで、業務の見直しや標準化を進めるべきでしょう。最後に、介護事業者へのメッセージをお願いします。

井上 昨今のコロナ禍においても、利用者やその家族のため、安心・安全な介護サービスの提供に日々ご尽力いただいていることに心から敬意を表します。皆さんのお仕事に今後も貢献できるよう、引き続き介護現場のテクノロジー活用等による生産性向上の取り組みの推進、介護ロボット等の開発・普及の支援、介護ロボット・ICTの導入支等に取り組んでいきます。