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チームのチカラ

【INTERVIEW】山浦一保/立命館大学スポーツ健康科学部教授

2021.11 老施協 MONTHLY

「チーム力」が求められる介護の現場。今月は、「リーダーシップ」や「組織の人間関係」の研究に携わる組織心理学者の山浦一保さんに、強いチームに必須の信頼関係のつくり方などを聞きました。


“情報と情熱の交換”が強いチームを生み出す

信頼関係を築く秘訣

組織内の信頼関係を築く3つの要素

組織におけるリーダーシップや人間関係を研究する「組織心理学者」として、強いチームやうまくいっている企業を研究していて感じる共通点は、「組織のリーダーとメンバーの間に信頼関係に裏づけられた情報と情熱(の交換)がある」ということです。信頼関係はすべての基本であり、信頼があるからこそリーダーはメンバーに「仕事を任せよう」と思い、メンバーも「応えよう」「期待以上のことをしたい」と意欲を保てます。

組織内の信頼関係はどのようにしたら築けるのでしょうか。私は、①挨拶、②働く「ベクトル」、③情報共有の3点が重要だと考えています。

①の挨拶は、信頼関係を築きたいリーダーにとって最も簡単に実践できる、コストのかからない方法です。コミュニケーション開始の合図であり、友好の証を示すものです。メンバーもリーダーから明るく「おはよう」と言われることで職場に対する不安が軽減され、帰りの「お疲れ様」で“つながっている”という感覚を味わえます。尊敬し合える関係であることを再認識させてもくれますし、その明るい感情は伝染しやすいという特徴があります。同じ会社の同規模の工場でも、工場長が社員に挨拶をしているかどうかで、メンタルの不調を訴える人数が違うという例があります。

②の働く「ベクトル」とは、組織の理念や目標のこと。どんなに優秀な人材が集まっても、各人が発揮する力の方向がバラバラではチーム力は高まりません。私の研究では、結果を出すチームほどスローガンにこだわっていました。2010年の経営破綻後、再建に関わったJALが、わずか2年後に「史上最高の純利益」を出すほどの劇的なV字回復を遂げられたのも、「JALフィロソフィ」と呼ばれる新たに明文化した経営理念の役割が大きかったのです。社員への調査でも「フィロソフィを通じて、会社の中での“正しいこと”の認識が定まり、前向きに業務に向き合えるようになった」という声が多く、組織にとっての目標設定の大切さを痛感しました。

③情報共有については、「コミュニケーションは熱伝導である」ことを知っていただきたいです。多様な価値観を持つメンバーがいる組織では、ただ情報を伝達するだけでは不十分。伝えるのと同時に、手のひらを通して相手と熱を伝え合う握手のように、互いに同じ温度感で情報や情熱を認識し合うことがとても大切です。

信頼関係が結べるコミュニケーションは、「情報」+「情熱」の交換が基本であることを知っておきましょう。

山浦一保/立命館大学スポーツ健康科学部教授

現場では、勇気を持ってリーダーと意見を交わすべき

介護の現場では、職場の人間関係に疲弊してしまう人も多いと聞きます。リーダーの部下に対する対応のまずさが、職場の雰囲気の悪さの原因になっていることも少なくありません。
そうしたとき、部下は勇気を持ってリーダーに意見を伝えたり、聴いてみたりしてください。そうすることで、このチームで最善を模索していこう、という気持ちが生まれます。
「一緒に働いていることに、きっと意味がある」ということを見出したチームは、とても強いのです。

山浦一保/立命館大学スポーツ健康科学部教授

やまうら・かずほ
立命館大学スポーツ健康科学部スポーツ健康科学科教授。
熊本大学教育学研究科学校教育専攻・修士課程修了、修士(教育学)。広島大学生物圏科学研究科環境計画科学専攻・博士後期課程修了、博士(学術)。
長年にわたって企業やスポーツチームにおける「リーダーシップ」と「人間関係構築」に関する心理学研究に従事。福知山線脱線事故直後のJR西日本や、経営破綻直後のJALをはじめ、数多くの組織調査を現場で実施。個人がいきいきと働きながら、組織が成果を上げるために、上司と部下はどのような関係を構築すればいいのか、理論と現場調査の両面から解明を試み続ける。
近著に『武器としての組織心理学』(ダイヤモンド社)