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「次期介護報酬改定」の羅針盤
国の議論から改定の方向性をつかめ!

2020.8 老施協 MONTHLY

新型コロナウイルスの感染拡大に歯止めがかからず、経済状況の悪化が懸念されている。社会が大きく揺れ動くなか、国の動きも関係する会議が通常通りに開催されず、審議が遅れ気味になるなどの影響が出ている。介護事業にかかわる立場として気になるのが、国が介護サービスをどのようにしていくかの方向性であり、より具体的には、来年の介護報酬改定の行方だ。7月17日、これからの経済財政運営の指針となる「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針2020)」や「成長戦略実行計画」などが閣議決定された。本特集では、今後の介護をめぐる施策の方向性を知るため、関係する国の議論・論点を整理する。


知っておきたい!
介護制度のあり方を検討する国の会議

介護報酬を含め介護制度のあり方に影響を与える「骨太の方針」や「未来投資戦略」「規制改革実施計画」。これらの取りまとめにあたる国の各会議について、目的や今年の動向などを改めて押さえておこう。


収束の見えないコロナ禍での
経済財政政策と成長戦略の柱

政府の経済財政政策と成長戦略の柱となる「経済財政運営と改革の基本方針2020」が7月17日に閣議決定された。「骨太の方針」とも呼ばれ、予算編成を政治主導で行うためのものだ。例年は6月に閣議決定されるが、今年は新型コロナウイルス感染症の影響により、概算要求や政府の各種審議が遅れ気味となるなか、7月中旬にずれ込んだ。
今回の「骨太の方針」の内容を端的にいえば、新型コロナ拡大を機に社会変革を進めようとするものとなった。介護も例外ではない。たとえば、密な接触を減らすという観点からICT(情報通信技術)や介護ロボットの導入の促進に言及している。
同日、「成長戦略実行計画」と「成長戦略フォローアップ」も閣議決定され、このなかにも介護のあり方に関する内容が盛り込まれている。ほかにも政府はさまざまな会議体を設けており(図表1)、そこで行われている議論のなかには介護現場のあり方に大きく影響するものもある。介護事業の行方を探るには、これらのポイントを押さえておく必要がある。


「骨太の方針2020」「成長戦略実行計画」が示すポイント

「経済財政運営と改革の基本方針2020(骨太の方針2020)〜危機の克服、そして新しい未来へ〜」は、これから1年間を集中改革と位置づけ、ウィズコロナの経済戦略やデジタルを活用した「新たな日常」の実現を打ち出している。こうした方針が介護の現場にどのような変化を及ぼすのかを見てみる。


(1)経済財政運営と改革の基本方針2020(骨太の方針2020)

新型コロナ感染症を機にデジタル化をさらに加速

経済財政諮問会議での答申を経て臨時閣議で決定した「経済財政運営と改革の基本方針2020」(骨太の方針2020)は、副題を「危機の克服、そして新しい未来へ」とし、新型コロナウイルス感染症の拡大に直面している現在の状況を「時代の大きな転換点」と位置づけたうえで、これを機に遅れ気味だった社会変革を断行するという決意を表明するものとなっている。
前面に打ち出されているのが、デジタル化の加速だ。「行政分野を中心に社会実装が大きく遅れ活用が進んでおらず、先行諸国の後塵を拝している」と強調し、感染症拡大を社会変革の契機ととらえて「通常であれば10年掛かる変革を、将来を先取りする形で一気に進め、『新たな日常』を実現する」としている。介護事業者もこの動向に注目しておく必要がある。
介護分野でも求められる

「新たな日常」への対応

「骨太の方針2020」はコロナ禍という試練を踏まえ、「新たな日常」を通じた「質」の高い経済社会の実現をめざすとしており、介護については「介護・障害福祉分野の人手不足に対応するとともに、対面以外の手段をできる限り活用する観点から、生産性向上に重点的に取り組む」としている。そのうえで、ケアプランへのAI(人工知能)活用を推進し、介護ロボット等の導入については効果検証によるエビデンスを踏まえ、次期介護報酬改定で“人員配置の見直しも含め後押しすることを検討”するべきと指摘している。
また、介護予防サービス等におけるリモート活用、文書の簡素化・標準化・ICT化の取り組みを加速させることをうたっている。

行政サービスのデジタル化と各種手続きの簡素化

「我が国のデジタル化、オンライン化の遅れ」を挽回するため、すべての行政手続を見直し、原則として書面・対面・押印を不要と明言し、デジタルで完結できるように見直すことを求めている。
これまで全国老施協は政府に対し、介護分野の文書にかかる作成業務の負担の重さやローカルルールの存在を指摘してきた。この課題を検討するため厚生労働省は社会保障審議会介護保険部会に「介護分野の文書に係る負担軽減に関する専門委員会」を設置して議論を進め、昨年12月4日に中間とりまとめを公表しているが、なお課題も残されている。「骨太の方針2020」を受け、介護現場の負担となってきた文書作成や行政手続きの見直しが加速することに期待したい。

感染拡大防止に向けて入所者等の検査を拡充

高齢者施設には引き続き感染防止の対応が求められる。「骨太の方針2020」は感染拡大防止と経済活動の段階的引き上げの両立を図るため検査能力を拡充するとし、医療等従事者や入院患者に加えて「施設入所者等に対して、感染の可能性がある場合は積極的に検査を行う」としている。また、「介護・障害福祉施設に対する個室化など環境整備や在宅サービスも含めた感染拡大防止のための支援を行っていく」ことも掲げている。
そのほか、「新たな日常」を支える包摂的な社会の実現をうたい、「高齢者の見守り、人の交流やつながり、助け合いが充実した地域共生社会の構築を進め、誰ひとり取り残されることない包摂的な社会の実現をしていく」と述べ、この点においても社会福祉法人への期待が高まることが考えられる。

コロナウイルス感染症と次期介護報酬改定

コロナ禍という未曽有の事態に直面したためか、今回の「骨太の方針」から2025年度にプライマリーバランス(基礎的財政収支)を黒字化するという目標が消え、社会保障制度については「2022年までに基盤強化を進めることを通じ、より持続可能なものとし、次世代に継承する」という表現にとどまっている。
新型コロナウイルス感染症対策として巨額の補正予算が計上されたところだが、高齢者を感染症から守る介護事業を人材不足で崩壊させるような事態を招かないため、次期介護報酬改定では、なんとしてもプラス改定を勝ち取る必要がある。


Column


規制改革実施計画
介護職員が安心してケア行為をできる環境づくりを提言

規制改革推進会議の「規制改革実施計画」(7月17日閣議決定)では、介護現場での医行為に踏み込んだ提言をしている。
具体的に、介護現場で実施されることが多いと考えられる行為について、「医行為ではないと考えられる行為を整理した上で、当該行為は介護職員が実施できる旨を関係者に周知する」ことを求めている。医行為に該当しないケア行為を明確にすることで、介護職員が安心して日々のケア行為を円滑にできるようにするためだ。
このほか、介護サービスの生産性向上に向けて、次のような事項を掲げている。

1)介護事業者の行政対応・間接業務に係る負担軽減

ローカルルールによる介護事業者の負担を軽減するため国が定める標準様式においての見直しを行うとともに、地方公共団体が独自に過剰な記載を求めることがないよう、行政提出文書の取扱指針をガイドライン等で示す。

2)ICT・ロボット・AI等の導入推進

介護支援専門員のモニタリング訪問、サービス担当者会議については、テレビ会議、ビジネスチャット等のICT活用による訪問等の代替を含めた業務負担軽減について検討する。

3)介護アウトカムを活用した科学的介護の推進

アウトカムベースでの介護報酬の検討や事業者自らのサービスの改善が可能となるようなデータベース構築に引き続き取り組む。

4)介護事業経営の効率化に向けた大規模化・効率化

介護事業者の連携にあたって社会福祉連携推進法人制度が積極的かつ有効に活用されるよう、議決権に係る定款上の別段の定めに関する考え方を整理する、など。

(2)成長戦略実行計画・成長戦略フォローアップ

予防・健康づくりの取り組みと次世代ヘルスケアの推進

未来投資会議が7月17日に決定した「成長戦略実行計画」は、第9章に「新型コロナウイルス感染症の感染拡大を踏まえた対応」を掲げ、これまで令和2年度第1次補正予算および第2次補正予算等で合わせて事業規模総額230兆円を超える対策を講じてきたことに言及。「今後、感染拡大の防止策を講じつつ、社会経済活動レベルを段階的に引き上げていく中で、雇用・事業・生活を守り抜き、経済の力強い回復と社会変革の推進を実現していくため、これらの予算の迅速な執行を図る」としている。
「成長戦略フォローアップ」では、介護について、大きく「疾病・介護の予防」と「次世代ヘルスケア」の2項目に整理して取り組み事項を掲げている(図表3)。「疾病・介護の予防」では「エビデンスに基づく予防・健康づくりの取組を促進する」として「介護予防のインセンティブ措置の更なる強化」を掲げ、「利用者の平均的な日常生活動作の維持又は改善に対する介護報酬加算について、自立支援や重度化防止等の観点から、2020年度中にエビデンスに基づく効果検証を行い、次期介護報酬改定で必要な対応を行う」としている。


介護給付費分科会の議論の動向

外国人材も含めた深刻な介護人材不足に加えて、新型コロナウイルス感染症への対応にも細心の注意が求められる介護現場。いつにも増して次期介護報酬改定にかかる審議が注目されるところだ。現時点での論点や今後の予定などを整理しておく。


「自立支援」「人材確保」など4つの分野横断的テーマを議論

3月16日の第176回社会保障審議会介護給付費分科会で、来年の介護報酬改定に向けた今後の検討の進め方が審議された。
厚生労働省は、平成30年度介護報酬改定に関する「審議報告」における「今後の課題」、昨年12月27日の介護保険部会の「介護保険制度の見直しに関する意見」、令和元年6月18日の「認知症施策推進大綱」などを踏まえ、「地域包括ケアシステムの推進」「自立支援・重度化防止の推進」「介護人材確保・介護現場の革新」「制度の安定性・持続可能性の確保」という4つの分野横断的なテーマについて議論を進めるとした。
「自立支援・重度化防止の推進」では、介護の質の評価に関する妥当性のある評価指標のあり方、プロセス、アウトカムの評価のあり方など(図表4)。「介護人材確保・介護現場の革新」では、介護報酬や人員、運営基準のほか、介護ロボットやICTの利活用、文書量の削減による負担軽減など。「制度の安定性・持続可能性の確保」では、感染症や災害の発生を踏まえた介護報酬や人員、運営基準の対応が論じられていく。

年明けの諮問・答申に向けて個別サービスごとの議論を開始

7月8日の第179回介護給付費分科会からは、サービスごとの議論が始まった。厚生労働省が示した論点に沿って委員が意見を述べており、全国老施協からは小泉立志理事が委員として参加している。特別養護老人ホームなどについては、基準費用額や地域区分への対応などが介護給付費分科会の審議において積み残されたままになっており、これらについての議論も行われる可能性がある。
今後のスケジュールとしては、論点についての議論や事業者団体へのヒアリングを経て年内に基本的な考え方の整理・とりまとめを行い、年明けに諮問・答申が行われる予定だ(図表5)。今般の経済社会状況を踏まえたサービス提供体制の見直しを実現し、これを「ニューノーマル」として定着させるため、ヒアリングや議論を通じて、介護現場の声を国政の場に届け続けることが必要になる。