特集

認知症最前線

認知症BPSDケアプログラムの取り組み②

2021.3 老施協 MONTHLY

認知症の症状を統一された基準で初期段階から把握し、適切なケアを行うことで認知症症状の改善に役立てる――。「認知症BPSDケアプログラム」を先駆的に導入した施設を紹介する連載の第2回目は、パーソンセンタードケアをベースにケアプログラムを取り入れて、一人ひとりに合った認知症ケアを実現させている特別養護老人ホーム「ブロン」(埼玉県志木市)を取り上げます。

社会福祉法人ルストホフ志木
特別養護老人ホーム ブロン

職員全員で統一したケアを実践し重度認知症の行動・心理症状を改善

「この体操のお陰で元気でいられる」と、毎日体操に励む特養利用者の皆さん

「パーソンセンタードケア」の考え方を重視

1997年、埼玉県志木市で最初の特別養護老人ホームとして、社会福祉法人ルストホフ志木が設立した「ブロン」。法人名の「ルストホフ」は楽園、施設名の「ブロン」は泉という意味のオランダ語で、「人と人、人と自然が共生する楽園のような居場所にしたい」という思いが込められています。同法人では「愛と感謝と奉仕」を経営理念に掲げ、特養をはじめ、デイサービス、ケアハウス、居宅介護支援事業所、グループホームなどの事業を幅広く展開してきました。
「認知症BPSDケアプログラム」の「アドミニストレーター」でもある理事長の西川留美加さんは、次のように話します。「当施設は、利用者一人ひとりの生活や人生を尊重するパーソンセンタードケアの考え方を積極的に取り入れ、認知症ケアに力を入れてきました。当法人は事業面でも、認知症対応型デイサービスを行ってきたほか、2014年にはグループホームを開設しました。職員の認知症ケアに対する意識も高く、認知症BPSDケアプログラムの活用にもほとんどの職員が前向きだったため、非常にスムーズに導入できました」

職員と一緒にお話しを楽しみながらおしぼりを畳む特養の利用者 習字の練習を継続し、作品展に出展するほどの腕前を持つグループホームの利用者 施設横の水上公園で散歩を楽しむグループホームの利用者 得意な料理の盛り付けで腕をふるうグループホームの利用者

NPI評価により症状の背景要因が明らかに

同法人では、2019年10月から約5か月間、特養とグループホームの利用者各2人を対象に、認知症BPSDケアプログラムを実施しました。事前に西川さんと、グループホームで介護主任を務める坂本枝美子さんが、運用方法に関する研修を受けてアドミニストレーターとなり、研修で学んだプログラムの実践方法を特養とグループホームの現場職員に説明。評価や分析のつどチームのみんなで考え、話し合いながら同プログラムを進めました。
特養の対象者となった80代の男女は、どちらも認知症の症状が重く、他の利用者とのトラブルが生じていました。対象者の選定に関わった生活相談員の村松由紀さんは、「女性は1日のなかでも気持ちの浮き沈みが激しく、時には他の利用者に対して攻撃的な行動が見られました。男性は徘徊が多く、他の利用者の居室に入ってしまうといった問題がありました」と振り返ります。

坂本-村松

女性については、NPI(認知症の症状の頻度・重症度を評価する尺度)による評価を行ったところ、幻覚や妄想があることがわかり、そのために強い不安が生じていることや、周りから注目されていないことによる阻害感があることが想定されました。そこで、不安や寂しさを軽減させるために、「わかりやすく、かつ優しさのある声かけやスキンシップをできるだけ多く行う」というケア計画を立て、これに沿って、職員全員の女性への関わり方を統一させることにしました。
取り組みの成果をDEMBASE(症状やケアの効果を数値によって評価するオンラインシステム)を用いて分析した結果、興奮や多幸感が改善したため、NPI評価の点数は、同プログラム開始時の「57点」から2か月後には「50点」まで下がり、症状が改善されたことが明らかになりました。

特別養護老人ホーム ブロンの取り組み

村松さんは、「NPI評価の点数から効果を客観的に捉えることもできますが、実際に女性は攻撃的な言動がなくなり、落ち着いて過ごせるようになったので、現場の職員も症状の改善を実感することができています」と評価します。
特養のもう一人の対象者だった男性もNPI評価の点数が2か月で「66点」から「58点」に下がったほか、グループホームの対象者も4か月間、職員が個々のケア計画に基づいた関わり方に徹したことでNPI評価の数値を下げることができ、いずれも症状の改善が見られました。

NPI 評価を行うためケア会議を開催

利用者への深い理解が的確な評価につながる

認知症BPSDケアプログラムの運用に関わった、特養のケアマネジャーを務める奈良浩平さんは、「NPI評価によって頻度や重症度の高い行動・心理症状が明確になり、その背景要因を分析することで、本人のニーズに合わせたケア計画が立てられた点が良かった」、特養のグループリーダーを務める高橋大地さんは、「行動・心理症状の評価や背景要因の分析、ケア計画の作成を多職種みんなで話し合いながら行えたことが良かった」と、それぞれ認知症ケアの質が向上し、成果が得られたことを評価しています。

理事長・施設長でアドミニストレーターの西川留美加さん
特養のケアマネジャー・奈良浩平さん
特養の介護職でグループリーダーの高橋大地さん

その一方で、同プログラムの活用にあたり注意すべき点や課題も明らかになりました。プログラムでは、評価や分析のたびに多職種全員が集まって話し合う必要があります。日頃から多職種によるカンファレンスを行っている特養ではそれが可能でしたが、グループホームは職員がシフト勤務のため、ケア会議に全員が顔を揃えることが困難でした。そこでアドミニストレーターである坂本さんが会議に出席できない職員から個別に聞き取り調査を行い、その内容を会議に反映させるといった対応も求められました。
また、NPI評価では一人の利用者を複数の職員で評価することになるため、意見が分かれたときの調整も必要になります。坂本さんは、「プログラムの効果を高めるためには、評価を的確に行うことが重要ですが、それには職員が利用者の生活歴や性格まで深く理解していなければなりません。取り組みのベースに、やはりパーソンセンタードケアの考え方が不可欠であると感じました」と指摘します。
西川さんは、「これまで、認知症ケアにおいては職員の視点や対応がばらばらになりがちでしたが、認知症BPSDケアプログラムを経験したことで、利用者に混乱を与えることなく、効果的なケアを提供できることがわかりました。今後は、課題にも対応しつつ、プログラムの対象者を増やすとともに、特養・グループホーム以外の事業所にも普及させていきたいと考えています」と展望を語ります。

社会福祉法人ルストホフ志木「特別養護老人ホーム ブロン」

社会福祉法人ルストホフ志木
特別養護老人ホーム ブロン
個室70床
埼玉県志木市本町2-10-50
TEL:048-473-3000 FAX:048-473-0001
https://bron.or.jp/