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チームのチカラ

【INTERVIEW】落合啓士/元ブラインドサッカー日本代表キャプテン

2021.7 老施協 MONTHLY

「チーム力」が求められる介護の現場。今回は、ブラインドサッカー日本代表キャプテンとして世界を舞台に活躍した経験を持ち、現在は監督としてチームを率いる落合啓士さんに、チームワークをつくるコツやリーダーの心構えについて聞きました。

ポジティブな声かけでメンバーの自信を醸成するのがリーダーの役割

自己肯定感は他者肯定感も高める!

前向き・積極性がチームの雰囲気を変える

ブラインドサッカーは、アイマスクを付けた選手が音の鳴るボールを使って戦う球技で、監督やゴール後ろにいる「ガイド」の声やボールの音などを頼りにプレーします。身体の接触も多く、味方や敵の位置を察知する「空間認知能力」や次の展開を読む「予測力」など、独特なスキルが必要です。
キャプテンとして最も重視していたのは、普段から、笑い合いなんでも言い合えるような関係をメンバーとつくること。そうした基盤となる信頼関係があってこそ、「このボール、俺、取るよ」「敵が近くにいる」といった、お互いを思い合いながらの声かけが可能となり、パフォーマンスが上がっていくと考えたからです。
一方、一選手として心がけていたことは、プレーを楽しむこと。「個」が楽しんでいないと、チーム全体に良い雰囲気は広がりません。キャプテンとしてもプレーヤーとしても常にポジティブでいることが、チームに貢献できる自分なりのやり方だと思っていました。
ポジティブさにこだわるのは、自分の経験があるからです。18歳まで目が見えていたことから、全盲となったときはそれを周囲に知られるのが嫌で、白杖を使うことにも抵抗がありました。しかし、ブラインドサッカーに出会いプレーすると、今まで「目が見えなくて大変そう」と見られていたのが、「すごい」「格好良い」という賞賛の言葉に変わるのがわかりました。そのような「他者からの承認」で自己肯定感が高まり、今では「目が見えなくなったからこそ『日本代表』になれた」とさえ思えるようになっています。こうした経験から、選手の時も監督になった今も、「ポジティブさは自分も、人も変えていく」と信じているのです。

ミスだけ指摘せずプロセスを評価すべき

監督としては、選手を「引っ張っていく」というより「寄り添う」リーダー像をめざしています。リーダーとしてありがちなのは選手のミスだけを指摘することで、それはしないようにしています。
選手の失敗や弱点を注意する際は、まず「なぜ、ミスが起こったと思う?」とオープンクエスチョン(回答者が自由に答えられる質問)で問いかけます。その後、ポジティブな言葉を前後に挟んでアドバイスを伝えています。たとえば「シュートに行く前の動きは良かった」と評価し、「でも、ボールを蹴る際、少しずれてアウトサイドに当たったね」と指摘したうえで、「でも、あそこでシュートしたチャレンジ精神はすごい」というように、結果ではなくプロセスをほめることを意識しています。
これは、介護の世界でも同じではないでしょうか。介護の現場では、同じ方でも日や時間によって機嫌も状況も違うはず。そのなかで臨機応変に対応されているのは実に素晴らしいことで、たまにミスをしてしまったとしても、仕事のなかの細かなプロセスを忘れずに評価すべきだと思います。
自己肯定感は、むろん自分の努力と経験で積み上げるものですが、リーダーの声かけ次第で自信となる第一歩を後押しできるはずです。

落合啓士/元ブラインドサッカー日本代表キャプテン

おちあい・ひろし
元ブラインドサッカー日本代表キャプテン/ブラインドサッカーチーム「松本山雅B.F.C.」監督。
1977年、神奈川県生まれ。遺伝性の病気である「網膜色素変性症」のため、10歳から視力が低下し18歳で全盲に。盲学校でフロアバレーボール、ゴールボールに取り組み、はり・きゅう・あん摩マッサージ指圧師の資格を取得。2003年にブラインドサッカーと出会い、日本代表チームに加入。12年から17年までキャプテンを務める。20年3月、引退。同年7月から、全盲として日本初のブラインドサッカーチーム「松本山雅B.F.C.」の監督に就任。YouTuberとして活動するほか、「視覚障害者就労に革命を起こすオンラインサロン」を開設・運営。著書に『日本の10番背負いました  ブラインドサッカー日本代表・落合啓士』(講談社)がある