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「豊かな高齢者福祉」へのアプローチ

2021.7 老施協 MONTHLY

国が示す社会保障・介護施策の方向性・論点を読み解く

政府は6月18日、今年度の「経済財政運営と改革の基本方針2021」(「骨太の方針2021」)、「成長戦略実行計画」、「規制改革実施計画」を閣議決定した。いずれも今後の経済財政運営の方向性や経済成長に向けた具体策が盛り込まれており、国の社会保障政策の方向性をつかむためにも、高齢者福祉関係者としては、その内容やポイントを押さえておきたいところだ。
また、これらに先んじて5月21日、財務省の財政制度等審議会は次年度予算編成についての意見書「財政健全化に向けた建議」を取りまとめている。こちらも次年度の高齢者福祉関連施策に大きな影響を与える。
前回の介護報酬改定が行われた2018(平成30)年以降、これらの提言にどのような項目が記され、どのような事項が実現し、2021(令和3)年度介護報酬改定にどのように反映されたのか。本特集で改めて振り返り、残された課題や高齢者福祉政策の方向性の全体像を検証してみたい。

2022(令和4)年度予算成立までの主なスケジュール


Part1
経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)

――コロナ禍の影響もあり、官民あげて「デジタル化を加速」

財政健全化の目標を達成するため、社会保障費の抑制を求める声が改めて高まることが予想される

平成30(2018)年
「少子高齢化」を克服し持続的な成長の実現をめざす

「少子高齢化の克服による持続的な成長経路の実現」と題した2018年の「骨太の方針」(6月15日)では、財政健全化の目標として「2025年度の国・地方を合わせたプライマリーバランス(基礎的財政収支)の黒字化をめざす」と宣言。従来の黒字化の目標時期を5年先送りした形になった。
介護に関しては、▽元気で働く意欲のある高齢者を介護・保育等の専門職の周辺業務において育成・雇用する取り組みを全国に展開すること、▽人口減少のなかにあって、少ない人手で効率的に医療・介護・福祉サービスが提供できるようにAIの実装に向けた取り組みを推進すること、▽ケアの内容等のデータを収集・分析するデータベースを構築することに加え、ロボット・IoT・AI・センサーの活用、科学的介護の推進、栄養改善を含めた自立支援・重度化防止等に向けた介護の推進、自立支援・重度化防止等に資する科学的なケアプランの実用化に向けた取り組みの推進、ケアマネジャーの業務の在り方の検討などが盛り込まれた。「共助社会・共生社会づくり」が打ち出されたことも注目される。

令和元(2019)年
「地域共生社会」実現に向けた取り組みを強化

令和初の「骨太の方針」(6月21日)は「『令和』新時代:『Society5.0』への挑戦」と銘打ち、「全世代型社会保障への改革」を打ち出し、これに関連して、「疾病・介護の予防」を取り上げている。また、「全ての人々が地域、暮らし、生きがいを共に創り高め合う地域共生社会」を実現するとして、「複合化・複雑化した生活課題への対応のため、断らない相談支援等の包括支援や多様な地域活動の普及・促進について、新たな制度の創設の検討を含め、取り組みを強化する」とうたった。
財政面については、団塊の世代が75歳以上に入り始める22年までに基盤強化を進め、経済成長と財政を持続可能にする基盤固めにつなげるため、「給付と負担の見直しも含めた改革工程表について、進捗を十分に検証しながら、改革を着実に推進する」とする一方、「(次年度の)骨太の方針2020において、給付と負担の在り方を含め社会保障の総合的かつ重点的に取り組むべき政策を取りまとめる」と明記した。

※Society5.0:サイバー空間とフィジカル(現実)空間を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会

令和2(2020)年
コロナ対応を迫られるなか「新たな日常」を模索

新型コロナウイルス感染症への対応が重大な政策テーマとなった2020年の「骨太の方針」(7月17日)は、「危機の克服、そして新しい未来へ」を副題とした。「デジタル化の加速」を打ち出し、感染症拡大を契機と捉えて変革を一気に進め、「新たな日常」を実現することを掲げた。
具体的施策として「新たな日常(ポストコロナ)下における社会保障体制の構築」を挙げ、介護については、ケアプランへのAI活用や介護ロボットの導入の効果検証を踏まえて、次期(令和3年度)介護報酬改定で人員配置の見直しも含めて検討すべきとした。
また、コロナ禍において感染症対策のための補正予算が組まれるなか、「2025年にプライマリーバランスの黒字化をめざす」という文言が消えた。
令和3年度介護報酬改定では0.7%のプラス改定が実現するとともに、「骨太の方針2020」に盛り込まれた▽科学的介護を進めるためのケアの内容等のデータを収集・分析するデータベースの構築、▽介護ロボットの導入の施策などが現実化した。また、感染防止や多職種連携促進の観点から、運営基準や加算の要件等における各種会議等の実施について、テレビ電話等の活用も認められることになった。

令和3(2021)年
財政健全化の目標「堅持」を改めて強調

今年の「骨太の方針」(6月18日)は、「日本の未来を拓く4つの原動力」と題し、「グリーン化」「デジタル化」「地方の所得向上」「子育て支援」を重点分野として挙げている。また、ポストコロナの持続的な成長につなげる投資を加速することも打ち出した。新型コロナ対策では、病床や医療従事者を確保するための国や自治体の権限を強化すること、地域を越えて医療資源を有効に使えるよう国と地方の役割分担を検討すること、緊急時の対応は「より強力な体制と司令塔の下で推進」することが明記された。
重点分野の一つとした「デジタル化」は官民挙げて加速するとし、介護分野についても「医療・介護データとの連携や迅速な分析の環境の整備を図る」としており、介護事業者としてもLIFE(科学的介護情報システム)への対応が求められることになる(図表1)。あわせて、「骨太の方針」が唱える「共助・共生社会づくり」の一環として、「認知症施策推進大綱」に基づく対応なども求められる。

図表1 LIFEによる科学的介護の推進(イメージ)

「骨太の方針2021」では、一人当たり介護費の地域差縮減のため、都道府県単位の介護給付費適正化計画のあり方の見直しを含めたパッケージを国が示したうえで、「市町村別に評価指標に基づき取り組み状況を見える化する」こともうたっている。今回、利用者負担の原則2割、ケアプランの有料化への言及は見送られたが、次期介護報酬改定に向けて、これらに関する議論が行われる可能性もある。
注目すべきは、「2025年度の国・地方を合わせたプライマリーバランスの黒字化を目指す。同時に債務残高対GDP比の安定的な引下げを目指す」という財政健全化の目標を「堅持する」としていることだ。新型コロナ感染症が収束に向かうにつれ、改めて財政健全化の必要性を訴える声、社会保障費の抑制を求める声が高まることも予想される。


Part2
成長戦略実行計画

――ICT活用などで介護分野の「生産性向上」をさらに推進

地域の核として、介護事業者には地域コミュニティを支える役割が求められている

平成30(2018)年
ビッグデータの活用と介護データベースの実装

この年までは、成長戦略として、閣僚と民間議員で構成される未来投資会議が「未来投資戦略」を策定していた。
「『Society5・0』『データ駆動型社会』への変革」と題した「未来投資戦略2018」(6月15日)では、「次世代ヘルスケア・システムの構築」として、「介護分野における多職種の介護情報の連携・活用」と「ビッグデータとしての健康・医療・介護情報解析基盤の整備」を明示。「自立支援・重度化防止に向けた科学的介護データベースの実装」「ロボット・センサー、AI技術等の開発・導入」「オンラインでの医療・多職種連携等の推進」などが盛り込まれた。

令和元(2019)年
全世代型社会保障に向けて「介護予防」を推進

この年、「未来投資戦略」が「成長戦略実行計画」に衣替えされ、あわせて同計画の構成に基づき、分野別の進捗および新たな取り組みを記載する「成長戦略フォローアップ」が取りまとめられることになった。
「成長戦略実行計画」(6月21日)は第3章「全世代型社会保障への改革」で、「疾病・介護の予防」として、サロン(通いの場)に参加した高齢者は要介護認定率が半減し、認知症発症リスクが3割減となったとの調査結果や、介護現場で高齢者を介護助手として採用し、周辺業務を担ってもらう取り組みを推進しているといった事例を紹介。先進自治体の介護予防モデルの横展開を進めるため、介護インセンティブ交付金(保険者機能強化推進交付金)の抜本的な強化を求めた。
また、疾病・介護予防に資する取り組みを促進するには、エビデンスに基づく評価を取り組みに反映していくことが重要として、データ等を活用した予防・健康づくりの健康増進効果等を確認するため、エビデンスを確認・蓄積する実証事業を行うことも盛り込んだ。

令和2(2020)年
未来投資会議から成長戦略会議へ

2020年の「成長戦略実行計画」(7月17日)では「新型コロナウイルス感染症の感染拡大を踏まえた対応」に言及している。
「成長戦略フォローアップ」は、介護について取り組む事項として「疾病・介護の予防」(エビデンスに基づく予防・健康づくりの取り組みを促進)と「次世代ヘルスケア」(技術革新を活かし、費用対効果の高い形で医療・福祉分野における個々の政策を、国民の健康増進や医療・介護の質・生産性の向上、現場の働き方改革につながるよう、一層スピード感をもって推進)に整理している。

図表2 ICT、ロボット、AI等の医療・介護現場での技術活用の促進

なお、この年の9月に発足した菅義偉内閣は、経済政策の旗振り役だった未来投資会議を廃止し「成長戦略会議」に衣替えした。安倍前政権では未来投資会議の議長は首相が務めたが、菅政権では経済財政諮問会議を経済政策の司令塔と位置づけており、成長戦略会議の議長には加藤勝信官房長官が就任している。菅首相が議長を務める経済財政諮問会議で経済財政運営と改革の基本的方針を提示し、成長戦略会議でその具体化について協議するなど、相互に連携を図っていくこととなった。

令和3(2021)年
労働生産性を向上させ所得水準アップにつなげる

令和3年度介護報酬改定で、「ロボット・センサー、AI技術等の開発・導入」などの生産性向上のための施策が盛り込まれたが、今年の「成長戦略実行計画」(6月18日)でも、日本の労働生産性の低さを改めて指摘。「労働生産性の上昇は労働者の実質賃金の上昇と密接な関係があり、実質賃金を引き上げていくためにも、その改善が必要である。その鍵はイノベーションである。成長戦略によって労働生産性を向上させ、その成果を働く人に賃金の形で分配し、労働分配率を向上させることで、国民の所得水準を持続的に向上させる」とした。この方針を受け、介護業界としてもICTの活用など、さらなる生産性の向上が求められることになった。
「成長戦略実行計画」の第2章「新たな成長の原動力となるデジタル化への集中投資・実装とその環境整備」の「デジタル庁を中心としたデジタル化の推進」では、「デジタル庁を中心に、国・地方自治体、準公共分野、民間が、徹底した国民目線で、ユーザーにとって使いやすいデザインや内容等を確保したサービスを創出するための環境を整備する」とうたっている。第5章「『人』への投資の強化」でも、「テレワークの定着に向けて、労働基準関係法令の適用について、ガイドラインの周知を図る。また、全国において良質なテレワークを推進するため、ICTツールの積極的な活用やサテライトオフィスの整備等を進める」と明記している。
第10章「足腰の強い中小企業の構築」の「地域の中小企業・小規模事業者等への支援」では、「地域の中小企業・小規模事業者等は、地域の雇用のみならず、人口が特に減少している地域社会において地域を支える重要な機能を果たしている。これらの事業者の生産性向上を図りつつ、生活に不可欠な機能の確保を図るため、地方自治体と国が連携して、地域づくりの担い手の創出や、中小企業・小規模事業者等による地域コミュニティを支える取り組みを強化していく」とある。社会福祉法人等の介護事業者にも同様の機能が求められている。
第12章「コーポレートガバナンス改革」では上場会社に対し、「女性・外国人・中途採用者の管理職への登用等、中核人材の登用等における多様性確保についての考え方と自主的かつ測定可能な目標を示すとともに、その状況を開示する」ことを求めている。介護事業者においても、こうした視点を持った運営を意識することが必要となるだろう。


Part3
規制改革実施計画

――提出文書の簡素化・標準化による負担軽減を図る

各種規制や制度運用の見直しを進め、生産性向上を後押し

平成30(2018)年
「混合介護」実現に向けてルール整備を提言

2016年7月末日に設置期限を迎えた規制改革会議の後継組織として、内閣府に「規制改革推進会議」が設置された。
同会議は、経済に関する基本的かつ重要な政策を推進する観点から、内閣総理大臣の諮問に応じ、経済社会の構造改革を進めるうえで必要な規制のあり方の改革に関する基本的事項を総合的に調査・審議するもので、そのもとに医療・介護分野を巡る改革課題に取り組む「医療・介護ワーキング・グループ」が設けられている。
18年の同会議による「規制改革推進に関する第3次答申〜来るべき新時代へ〜」(6月4日)では、「訪問介護サービスや通所介護サービスの現場において、介護保険内・外サービスの柔軟な組み合せが適切に行われるよう、地方自治体や介護事業者にとってわかりやすいルール(ガイドライン)の整備に向けて、フォローアップを行った」とし、「介護保険内・外サービスの柔軟な組み合せの実現」、いわゆる「混合介護」を取り上げている。

令和元(2019)年
NDB・介護DBの民間開放を提言

2019年の「規制改革推進に関する第5次答申」は「平成から令和へ〜多様化が切り拓く未来〜」(6月6日)と題し、「健康・医療・介護に係るビッグデータの民間開放」を提言。NDB(レセプト情報・特定健診等情報データベース)・介護DB(介護保険総合データベース)等の連結データの民間企業への提供に向けて、「提供にかかる審査基準・手続等を検討し、ガイドラインとして公表する」と明記した。
また、前年に検討課題として取り上げた「介護保険内・外サービスの柔軟な組み合せの実現」に関して、厚生労働省から通知「介護保険サービスと保険外サービスを組み合わせて提供する場合の取扱いについて」が発出されるなど、「規制改革実施計画」どおりの進捗を確認したと評価。東京都豊島区の特区事業である「選択的介護モデル事業」等の進捗も踏まえて、「引き続きフォローアップを行っていく」としている。
なお同会議は、規制改革をより一層推進するため、19年10月から常設化されることになった。

令和2(2020)年
ローカルルールを見直し介護事業者の負担軽減

昨年7月2日、内閣総理大臣に提出された「規制改革推進に関する答申」を踏まえ、対象とされた規制や制度、運用等について、期限を定めて着実に改革の実現を図っていくため、7月17日に「規制改革実施計画」が定められた。同計画は「介護サービスの生産性向上」の項目として、「介護事業者の行政対応・間接業務に係る負担軽減」「ICT・ロボット・AI等の導入推進」「介護アウトカムを活用した科学的介護の推進」「介護事業経営の効率化に向けた大規模化・効率化」を挙げている。
また、前年の2019年8月に社会保障審議会介護保険部会に設置された「介護分野の文書に係る負担軽減に関する専門委員会」が同年12月、「中間取りまとめ」を発表。「規制改革実施計画」でも、いわゆるローカルルールの見直しにより介護事業者の負担を軽減するため、「国が定める標準様式においての見直しを行うとともに、地方公共団体が独自に過剰な記載を求めることがないよう行政提出文書の取扱指針をガイドライン等で示す」などの方針を明らかにしている。
令和3年度介護報酬改定では、規制改革推進会議が示した「ICT・ロボット・AI等の導入推進」や「介護アウトカムを活用した科学的介護の推進」が反映され、見守り機器を導入した場合の夜間における人員配置の緩和や、署名・押印の見直しなどが実施されることとなっている。
そのほか、この年の計画では「医療・介護関係職のタスクシフト」の一環として、「介護現場における介護職員によるケア行為の円滑的な実施」に言及。「医行為ではないと考えられる行為」を整理したうえで、介護職員が可能なケア行為についての検討を始める方針を示している。

令和3(2021)年
介護記録の作成・保存や報酬請求事務の電子化を推進

今年6月1日、規制改革推進会議の「規制改革推進に関する答申〜デジタル社会に向けた規制改革の『実現』〜」が取りまとめられ、同月18日にこれを踏まえた「規制改革実施計画」が閣議決定された。
同計画は「介護サービスの生産性向上」として、厚生労働省の通知「社会保障審議会介護保険部会『介護分野の文書に係る負担軽減に関する専門委員会』中間取りまとめを踏まえた対応について」に示された事項の取り組み状況を把握し(図表3)、▽介護事業所が都道府県等に提出を要する文書のさらなる簡素化・標準化に取り組む、▽介護事業者が行政機関に対して行う文書提出のオンライン化に向けて介護サービス情報公表システムの改修を着実に行うとともに、継続的な機能拡充に取り組む­――ことを盛り込んだ。

図表3 介護分野の文書に係る主な負担軽減策

また、介護サービス事業者間におけるケアプランの電子的な送付・保存を可能とする「ケアプランデータ連携システム」について、「今後の工程・スケジュールを明らかにした上で早期の運用開始に向けて取り組む」としたほか、「介護職員等が行う介護記録の作成・保存やこれに基づく報酬請求事務の一層の電子化」にも取り組むとうたっている。さらに、「ICT・ロボット・AI等の技術の進展とその導入による介護現場の業務効率化の効果を継続的に検証し、引き続き、介護報酬上の評価の見直し等を検討する」とした。
介護事業者にとっては、文書負担の軽減が進められる半面、ICTの導入など生産性向上への姿勢も一層問われることとなるだろう。


Part4
財政健全化に向けた建議

――法人の統合・再編等による運営効率化の促進等を求める

制度の持続可能性に向けて、利用者負担の原則2割やケアプランの有料化を改めて主張

平成30(2018)年
負担能力に応じた利用者負担のあり方の検討を

「新たな財政健全化計画等に関する建議」(5月23日)では介護に関して、ケアマネジメントへの利用者負担の導入、軽度者への生活援助サービス等の地域支援事業への移行、利用者負担の引き上げ、金融資産等を考慮に入れた負担を求める仕組みの導入を求めた。
「平成31年度予算の編成等に関する建議」(11月20日)は、基盤強化期間の初年度である2019(平成31)年度は社会保障関係費の伸びを「高齢化による増加分に相当する水準におさめる」という方針のもと、「手を緩めることなく改革に取り組む必要」があると指摘。介護については「軽度者向け生活援助サービスに係る給付の在り方の見直しなどにより、大きなリスクは共助、小さなリスクは自助や地域の支え合いで対応」するべきと明記し、「年齢ではなく負担能力に応じた」利用者負担のあり方の検討に踏み込んでいる。

令和元(2019)年
インセンティブ強化による介護提供体制の改革を提言

「令和時代の財政の在り方に関する建議」(6月19日)では、「税財政運営の要諦は、国民の受益と負担の均衡を図ることにある」として、受益と負担の乖離により相互の緊張関係が失われると、財政支出が現在の世代に偏りがちになることを問題提起している。
また、「令和2年度予算の編成等に関する建議」(11月25日)では、介護のケアマネジメントへの利用者負担の導入を訴えたほか、「保険者における適正化のインセンティブ強化により、医療・介護の提供体制を改革すべき」と主張している。

令和2(2020)年「プラス改定の環境にない」と強くけん制

新型コロナウイルス感染症拡大の影響により、2020年は「春の建議」に代わって「今後の財政運営について」(7月2日)と題する財政制度等審議会の榊原定征会長の談話が発表された。このなかで、「限られた資源の中で、真に国民が必要とするサービスに重点化しつつ、社会保障制度の給付と負担のアンバランスを正し、制度の持続可能性を確保することは引き続き待ったなしの課題である」と訴えた。
また、「令和3年度予算の編成等に関する建議」(11月25日)では、今後の日本経済を考えるうえで、労働生産性を高める努力が不可欠と主張。介護報酬改定について、「新型コロナが国民生活にもたらしている影響に鑑みれば、通常の高齢化等の要因による国民負担増に加え、プラス改定により更なる国民負担増を生じさせる環境にはなく、国民負担を抑制するよう改定率を決定すべき」と強くけん制した。

令和3(2021)年
利用者負担の原則2割を改めて訴える

「財政健全化に向けた建議」(5月21日)では、「新型コロナ等の非常時に財政が機動的に対応することが求められるとしても、それは、高齢化・人口減少という構造的問題への対応を先送って良いということを意味しない」「社会保障給付費の増加に伴う保険料の増加は、現役世代の可処分所得の減少を通じて、消費の下押し圧力にもつながっている」として、財政健全化の必要性を改めて強調。「介護保険制度の持続可能性を確保」するため、令和6年度(2024年度)からの第9期介護保険事業計画期間からの実施に向けて、「サービスの利用者負担を原則2割とすることや2割負担の対象範囲の拡大を図ることを検討していく必要がある」と明記した。
同建議では、介護サービスや報酬について具体的な提言をしている。たとえば、ケアマネジメントに対して、利用者負担の導入や福祉用具の貸与のみを行うケースでは報酬を引き下げるなど、サービスの内容に応じた報酬体系とすることを求めている。
また、介護老人保健施設・介護医療院・介護療養病床の多床室の室料負担について、給付対象となっている室料相当額は基本サービス費等から除外すべきとしている(図表4)。

図表4 多床室の室料負担の見直し(「財政健全化に向けた建議」(令和3年5月21日)より)

要介護度ごとに設定された区分支給限度額については、対象外に位置づけられる加算が増加しているとし、居宅における生活の継続の支援を目的とした加算をはじめ、加算の区分支給限度額の例外措置を見直すべきと主張している。
さらに、「介護人材確保の取組とICT化等による生産性向上」に向けて、新型コロナの影響による離職者の介護分野への職業転換施策を強化し、介護人材確保を進めるとともに、サービスの質を確保しつつ、より少ない労働力でサービスが提供できるよう、配置基準の緩和等も行いながらICT化等による業務効率化を進める必要があると訴えている。
介護事業者は小規模な法人が多いことから、社会福祉連携推進法人制度の積極的な活用を促すなど、経営主体の統合・再編等による介護事業所・施設の運営効率化を促す施策もあわせて講じていくことを求めている。社会福祉連携推進法人制度については今年5月14日、「社会福祉連携推進法人の運営の在り方等に関する検討会」が取りまとめを行っており、社会福祉法人としては、これらを踏まえた対応を検討していく必要がある。
加えて、障害福祉サービスの場合、すべての法人に対し事業所等の財務状況の都道府県への報告等が法令上義務化されていることを引き合いに出し、介護サービスについても損益計算書をはじめとする事業報告書等の報告・公表を義務化し、事業者の経営状況の「見える化」を速やかに推進すべきとも提言している。
次期介護報酬改定に向けて、同建議に盛り込まれた事項が社会保障審議会介護給付費分科会などで論点とされることは、十分想定されるところだ。


Scope
人材確保やICT導入に活かしたい

「地域医療介護総合確保基金」

2014年度からスタートした「地域医療介護総合確保基金」。介護施設の整備、介護従事者の確保などに向けて、さまざまなメニューが利用できる支援策として、その概要を知っておきたい。

消費税増収分を活用した新たな財政支援

「地域医療介護総合確保基金」は、2014年6月に成立した医療介護総合確保推進法(地域における医療及び介護の総合的な確保を推進するための関係法律の整備等に関する法律)に基づき、各都道府県に設置された財政支援制度。団塊の世代がすべて75歳以上となる2025年を見すえ、病床の機能分化・連携、在宅医療・介護の推進、医療・介護従事者の確保・勤務環境の改善など、「効率的かつ質の高い医療提供体制の構築」と「地域包括ケアシステムの構築」に向けた取り組みを対象に財政支援を行う。
基金には、消費税の増収分を活用して国が2/3、都道府県が1/3を負担して毎年積み立てを行い、都道府県および市町村が策定する計画(都道府県計画、市町村計画)に沿って分配される(図表5)。

図表5 地域医療介護総合確保基金の仕組み

対象事業は次のとおり(14年度は医療にかかる①②④が対象とされ、15年度以降は介護も対象となった)。
①地域医療構想の達成に向けた医療機関の施設または設備の整備に関する事業
②居宅等における医療の提供に関する事業
③介護施設等の整備に関する事業(地域密着型サービス等)
④医療従事者の確保に関する事業
⑤介護従事者の確保に関する事業
⑥勤務医の労働時間短縮に向けた体制の整備に関する事業
厚生労働省は基金を活用し、介護ロボットやICT導入、介護施設における防災リーダー養成などの支援を進めている。また、公正かつ透明なプロセスの確保のため、関係者の意見を反映させる仕組みの整備も図っており、基金が活かされるよう、全国老施協として自治体の事業提案の募集に積極的に応じるなどの対応が求められる。