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令和3-4年度 全国老施協の主な取り組み

2021.6 老施協 MONTHLY

会長職の続投が決まった平石朗会長と5人の副会長による全国老施協の令和3-4年度の新体制がスタートした。今後も高齢化の進展による人口動態の変化、解消されない人材確保難、財政難による高齢者福祉予算の圧縮への圧力など、高齢者福祉事業をめぐる環境は厳しさを増していく。
介護事業者団体である全国老施協は、こうした諸課題に向き合い、将来の高齢者福祉のあり方を見すえた事業展開を図っていくことが求められている。先月号の特集で取り上げた組織改革をさらに進めることも課題として残る。
本特集では、会員施設を取り巻く経営環境や国の政策の方向性、老施協改革の進捗状況を踏まえ、今期(令和3-4年度)に全国老施協が取り組む重点事項を説明する。


今期の重点事項

《1》介護現場の革新

・介護現場でのICTの導入・活用

・介護の生産性・労働環境の向上

《2》広域感染症対策を含む災害対策の強化

・増え続ける自然災害、懸念される感染症流行への対策の充実

《3》介護報酬改定への対応

・制度改正後の現場の課題を迅速に国に伝達

・制度改正事項へのスピーディーな対応を支援

<Part1>現在進行形の主な課題

会員施設を取り巻く経営環境、国の政策の方向性など、全国老施協として対応しなければならない課題を整理したうえで、老施協改革の進捗状況を確認する。

会員施設を取り巻く経営環境、国の政策の方向性

高齢者福祉施設・事業所は現在、大変厳しい経営環境に置かれている。新型コロナウイルス感染症の拡大もあって利用控えが進み、2020年の老人福祉・介護事業の倒産は過去最多を更新した。介護人材不足も依然深刻であり、コロナ禍にあっても介護職員の有効求人倍率は高止まりしており、介護職員の賃金も介護職員処遇改善加算などにより着実に改善しているものの、全産業平均と比較すれば、まだ8.5万円の開きがある。
言うまでもなく介護人材不足の背景にあるのは少子高齢化であり、生産年齢人口の減少だが、注意しなければならないのは、都市部と地方部における介護需要に大きな違いが出つつあることだ。都市部では今後、高齢化が進むと予測される一方、中山間地などには、すでに高齢化のピークを過ぎ、介護ニーズの終焉を迎えている地域もある(図表1)。介護事業所・施設には地域ごとの違いを踏まえた経営戦略が求められる。

図表1 総人口における65歳以上の割合

全委員会をあげて改革と課題解決に邁進

厳しい事業環境のなか、平石朗を会長とする全国老施協の新体制が2年前にスタートした。当時は、全国老施協の不適正経理問題が報道された後であり、事業者団体としての信頼回復は喫緊の課題とされた。
平石会長は、全国老施協の改革の基本方針として「融和と再生」を掲げ、組織のコンプライアンスとガバナンス上の問題の再発を防ぎ、公益法人としての機能を十全に果たせるよう改革を断行し、あわせて都道府県指定都市老施協・国・関係機関などとの連携を強化することで、組織の「再生」を図ることをめざした。
以降、改革に取り組んだ全国老施協は、テレビ会議システムの導入による会議のオンライン化の定着、広報内容の見直し、広域感染症災害救援事業の実施、事業評価委員会の設置、会費の1割削減などを実現している。
一定の成果はあげたが、今年、再任が決まった平石会長は「改革は道半ば」として、会員施設を取り巻く経営環境や国の政策の方向性を踏まえ、引き続き全国老施協の全委員会で改革を進めるとしている。
今期、全国老施協は事業の選択と集中に力を入れ、各委員会活動についてPDCAを回すとともに、事業評価委員会により活動の目的や費用対効果を厳しく見極めていく。大きな課題である介護人材不足については、介護人材対策委員会などで対応し、地域の特性に応じた経営戦略の構築は介護保険事業等経営委員会が中心となって検討を進める。

<Part2>今期に取り組む重点事項

昨年末の理事懇談会の議論を受け、全国老施協は今期の重点事項を定めた。その一環として、双方向の情報共有を可能とするスマートフォンのアプリケーション開発などを進めた。

明確な方針のもと4つの重点事項を決定

全国老施協は昨年12月9日、「令和3年度事業計画立案の方向性」を議題とする理事懇談会を開催し、介護現場が直面している課題を改めて整理し、全国老施協でなければできないことを明確にしたうえで、重点事項を打ち出すことを決めた。
重点事項は、会員等に向けた強いメッセージとなるよう“具体的な内容を伴うものであり、かつ結果について検証可能なものにする”としたうえで、①戦略性を持ち、重点事業を明確に打ち出す、②実利のある事業に絞り、会員満足度を上げる、③事業廃止も含め検討し、事務局職員の負担軽減に努める︱︱という方針のもとで検討し、「介護現場の革新」「広域感染症対策を含む災害対策の強化」「介護報酬改定への対応」の3事業を位置づけ、新しい情報サービスを活用し展開していく(「今期の重点事項」参照)。
以下、その内容を詳しくみていく。

1 介護現場の革新

先進的事例をモデルとして横展開を図る

厳しい事業環境にある介護業界だが、財政危機という観点から、介護報酬に対する厳しい意見もある。その筆頭が国の予算や決算、財政投融資などを調査・審議する財務省の財政制度等審議会だ。
同審議会は令和3年度介護報酬改定を控えた昨年11月、麻生太郎財務大臣に「令和3年度予算の編成等に関する建議」を提出したが、このなかで、報酬改定のプラス改定は「もとより慎重を期すべきもの」と述べ、「少なくとも介護報酬をプラス改定し、国民負担増を行うべき事情は見出せない」とけん制。そのうえで、高齢者福祉施設・事業所の運営の効率化を要求し、「ICT化等を進め、効率的なサービス提供を実現することにより、介護現場における生産性向上を図り、介護サービスの質の確保とコストの縮減(事業者の利益の確保)を両立させる必要がある」と明記した。
介護を所管する厚生労働省も、ICTなどの活用により介護現場の生産性の向上を進めようとしている。
介護現場へのICTの導入についてはコストや導入時の業務負担増加などの課題もあるが、こうした国の動きに対応し、介護現場の生産性向上に必要な支援をしていくため、全国老施協は「介護現場の革新」を今年度の重点事項の一つとして位置づけ、全国の会員にICT導入に向けた基盤構築の支援や情報提供を推進していく。
具体的に、先進的な取り組み事例をモデル事業として、全国の各ブロックへの横展開を図っていく。また、厚生労働省を中心に国が進めてきた導入のノウハウをもとに産学官との連携のうえで、全国の会員にICT導入基盤構築や情報提供を推進していくことなどを実施する。
施設の膨大な業務の一部をICTにより省力化する際に大切な視点は、単に介護職員を減らして、コストを削減することではない。人手不足のなか、これまで時間をかけたくてもかけられなかったこと、たとえば、利用者と関わる直接介助の時間を増やしたり、新たな知識の習得や専門技術の追求などへ、より時間を費やせるようにしていくことだ(図表2)。
このような介護現場の革新を実現することにより、職場環境の改善を図るとともに、総合的に「良い高齢者福祉」をめざしたい。

図表2 介護現場へのICTの導入・活用でめざすこと

2 広域感染症対策を含む災害対策の強化

新型コロナ対応や自然災害対策の教訓・経験を活かす

世界中で猛威を振るう新型コロナウイルス感染症に対し、日本の高齢者施設は感染防止対策に努めてきた。このことは諸外国と比較して死者数が少ないことに表れたと評価されるべきだろう。
とはいえ、感染症の流行が長引くなか、介護職員や利用者の感染、施設におけるクラスター発生などの事態も生じている。
加えて、地球温暖化の影響からか、近年、増加傾向にある自然災害も介護事業を行ううえで大きな脅威となっている。昨年でいえば、熊本県を中心に九州や本州の中部地方に甚大な被害をもたらした「令和2年7月豪雨」により、全国老施協の多くの会員施設が被災した。
感染症や自然災害など、個々の施設では対応が困難な事態を経験することで、介護施設間の連携の重要性が改めて認識されるようになったといえる。
そこで全国老施協は「広域感染症対策を含む災害対策の強化」を重点事項の一つに位置づけ、新型コロナウイルス感染症への対応や、「令和2年7月豪雨」などから学んだ教訓や経験を活かした取り組みの強化を図っていく。
具体的には、災害派遣福祉チーム(全国老施協DWAT)の全県設置の実現を進めるとともに(図表3)、高齢者福祉施設・事業所における新型コロナウイルス感染症などの感染症対策を強化するほか、事業継続計画(BCP)立案を支援する。

図表3 令和2年度災害派遣福祉チーム (全国老施協DWAT)登録者数(合計653人)

3-1 介護報酬改定への対応

研修や情報提供を通して各種加算の取得を支援

令和3年度介護報酬改定は厳しい経済情勢のなか、前述の財政制度等審議会の意見などをはねのけ、0.7%のプラス改定が実現した。プラス改定に至るまでには、平石会長や参議院議員のそのだ修光常任理事による精力的な要請活動があった。菅義偉総理大臣や田村憲久厚生労働大臣に要請を行ったほか、最終局面では、実質的には総理の指示により、そのだ常任理事と財務省担当者との間でプラス改定をめぐる直接交渉が行われている。
このほか、全国老施協は介護報酬改定の審議過程において、全国の会員から集めた現場の意見を踏まえ、厚生労働省の社会保障審議会介護給付費分科会などで具体的な制度見直しの提案を行い、その結果、人員配置基準の見直しなどが実現することになった。
全国老施協は、「介護報酬改定への対応」を今期の重点事項の一つとし、全国の会員施設の運営に活かしてもらえるよう報酬改定の内容をわかりやすく伝えるとともに、各種加算の取得やLIFE(科学的介護情報システム)の活用など、新たに求められる対応を支援するため、情報提供や研修を充実させていく。

「令和3年度介護報酬改定ポータルページ」で、改定の内容や加算取得のポイントをわかりやすく解説

また、診療報酬との同時改定となる予定の次期介護報酬改定(令和6年度)に向け、そのだ常任理事としっかり連携し、全国の会員施設から集めた現場の課題などを国会(厚生労働委員会等)や政府与党にフィードバックし、あるべき介護制度の実現に努めていく。

3-2 重点事項を効果的に進めるため新しい情報サービスを開始

デジタル化を推進しより広く情報を発信

こうした重点事項を会員に広く周知し、事業の推進に会員の声を反映させていくため、デジタル技術による新しい情報ネットワークを活用していく。
具体的に、必要な情報をデジタルサイトおよびアプリから、より手軽に入手できるサービスを開始した。
まず、全国老施協の広報媒体である「JS–Weekly」「月刊老施協」のコンテンツをデジタル化し、「老施協デジタル」として配信する。国の政策情報や高齢者介護に関するニュース、現場の取り組みをより広く現場に届くようにするのが、その狙い。次に紹介するアプリ(「老施協.com」)からでもアクセスが可能だ。

「老施協デジタル」で、広報誌の記事などをオンラインコンテンツとして配信(イメージ)

アプリケーションにより現場とのネットワークを構築

全国老施協の経営戦略室では、介護現場へより広く情報が行き渡るようにするため、現場で多く用いられるスマートフォンを双方向コミュニケーションツールにできるアプリケーションの開発を進めてきた。それが「高齢者福祉で働く人のためのパスポート」(図表4)というキャッチフレーズで6月にリリースした「老施協.com」だ。

図表4 アプリケーション(老施協.com)の特徴と機能の概要

アプリの機能概要は図表4のようになっている(検討中の機能もあり)。情報配信サービスでは、高齢者福祉や介護に興味のある人がスマートフォンにインストールするだけで介護・福祉に関する報道機関のニュースのほか、全国老施協が提供するあらゆる情報にアクセスできる。「最新政策インサイト」は、全国老施協から国の政策や通知に関する情報を提供する機能であり、「便利帳」からは制度や運用上の解釈に関する相談窓口である「JSWEB110」など全国老施協の各専門サービスへアクセスすることもできる。
掲示板の機能もあり、「特養」「認知症」「コロナ対策」といったテーマごとにユーザー同士で情報を交換し、助け合うことが可能だ。また、さまざまなテーマについてユーザーにアンケートをリサーチできる機能も備えており、ニュースに対するユーザーのリアクションをリサーチできる情報共有機能も開発中である。
全国老施協に関わる現場職員は33万人以上に達する。これらの人々が双方向でつながり対話ができるネットワークを構築すれば、全国老施協は介護現場の生の声やニーズをひろい上げやすくなり、政策提言や公益事業の展開に活かしていくことができる。
豊かな超高齢社会、あるべき介護事業を実現するための有効なツールとして、「老施協.com」をこれからも進化させ、育てていきたい。